ある作品の最終回を取り上げて徹底的に語るコーナーです。
今回は『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の最終回について語ります。
コーナーの性質上ネタバレ全開となりますので未読の方はご注意ください。
もともとは、ファミコンゲームソフト『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』の
販促的な企画で「週刊少年ジャンプ」に掲載されたこの作品ですが、
いざ連載が始まってみると、メディアミックスの企画漫画とは思えないほどの
人気を博しました。
当初はバラン編の直後に大魔王バーンが現れて最終戦に突入する予定だった
みたいですが、その人気の過熱っぷりから物語構成は大きく変更され、
1989年から1996年までの間、実に7年間に渡り長期の連載が展開されました。
(全344話)
物語は当初の主旨から一切ブレることなく、最終回前話までで大魔王バーンを倒す
という大目的を達成し、ついに物語は大団円を迎えることとなります。
最終話「さらば!!! 愛する地上よ」
342話「さらば!我が友」、343話「さらば!!大魔王」ときて、
クライマックスの「さらば」シリーズ三部作完結編とでも言うべき
最終話「さらば!!! 愛する地上よ」です。
上昇を続けるバーンパレスはついに地上を見下ろす遥か天空まで
昇りつめました。
竜魔人と化した勇者ダイと鬼眼王と化した大魔王バーンの死闘は
苛烈を極めましたが、最後はついに勇者ダイが勝利するに至りました。
地上の仲間たちは遥か天空の勇者ダイの帰還を待ち続けます。
そして、ついに・・・!
ダイが、勇者ダイが地上へ帰ってきました!
落ちてくる勇者ダイを受け止める役は、ダイの一番の親友であるポップでした。
「この役だけは誰にも渡せねえぇっ!!」
ポップ悲願の勇者の凱旋でした!!
仲間たちからもみくちゃにされる勇者ダイ。
ダイにとっては自分が生命をかけて守った地上の人々から受ける
さっそくの祝福でした。
ところが、そんな祝福ムードに水を差すような不気味な声色が響きます。
そこへ現れたのは、なんと死神キルバーン!
アバンがたしかに首を刎ねたはずのキルバーンがなんと生きていたのです。
驚愕する一同に、キルバーンが自らの正体を明かします。
なんと、いままでキルバーンだと思っていた道化師の姿の男は
実はただの人形で、キルバーンの使い魔と思われた一つ目ピエロこそが
本当のキルバーンだったのです。
そして・・・!
キルバーンの人形の顔面にはなんと、いまわしき魔界の爆弾
「黒の核晶(コア)」が取り付けられていました。
ダイの父親・バランの命を奪ったり、大魔王バーンが地上破壊のために用いた
いわく付きの爆弾です。
キルバーンの本当の主は、魔界にいる冥竜王ヴェルザー。
地上破壊を目的とする大魔王バーンとは違い、地上そのものを欲しいヴェルザーは
キルバーンに機を見てバーンを暗殺するように命じていたのでした。
バーンは地上の勇者たちが倒してくれたが、大魔王以上の力を持つ
地上の勇者たちは非常に危険・・・!
キルバーンは黒の核晶を起動させ、地上の勇者を一掃しようとします。
その瞬間、はじかれたように飛び出した者たちがいました。
ダイとポップ・・・!
二人は核晶が起動したキルバーンの人形を抱えて上空へと飛び上がります。
手放している時間はなく、このまま二人は地上を守るために
心中してしまうことになります・・・!
でも、ポップはダイとふたりならそれでもかまわないと思いました。
・・・が、
ダイはポップを引き離しました。
・・・許してくれポップ
こうする事が・・・!!
こうして自分の大好きなものをかばって生命をかける事が・・・!!!
ずっと受け継がれてきた・・・
おれの使命なんだよ!!!
黒の核晶の大爆発から、地上は守られました・・・。
が、勇者ダイの姿はどこにもありませんでした。
それから数週間、仲間たちは世界中を探し歩きましたが、
勇者ダイの行方をつかむことはできませんでした・・・。
地上に突き立てられたダイの剣をみたポップには、
それがまるで墓のように見え縁起でもないと思いました。
しかし、それは勇者ダイが帰ってくる目印だといいます。
ダイの剣の宝玉はまだ光を失ってはいません。
それは、持ち主がまだ生きているということ・・・!
ダイがいまどこにいるかはわかりませんが、確実に生きています!
生きていれば、また会える!
ダイの帰ってくる場所は、地上(ここ)しかないのだから!
そうだ あいつが戻るその日まで
おれたちが世界を守っていこう
いつの日か あいつを見つけても
あいつが自分で帰ってきても
美しい大地や街並みや
平和な人々の暮らしを見て
これがおれの守った地上なんだ と
誇らしく胸をはれるようにしよう・・・!
ふたたび勇者が帰ってくる
その日のために・・・!!
語り尽くせ、最終回!
さーて、いかがでしたか『ダイの大冒険』の最終回は。
単純に大魔王を倒してバンザーイ!で終わりではなく、
本当の最後の敵にキルバーンを据えたのは当時ちょっとした衝撃がありました。
しかも、キルバーンの本体が実は一つ目ピエロのピロロの方だった!
というのも驚きの展開です。
最後の最後まで、こういう驚きの演出を挟むのは原作の三条陸先生の
匠の仕事を感じます。
それも、キルバーンの再登場は単純に驚きの演出のためだけではなく、
さまざまな要素をもって、エンディングの印象を引き締めるのに効果を
発揮しています。
まずは、「その後」への妄想を読者にかきたてさせる効果をもっています。
いままで話には何度か登場していた「冥竜王ヴェルザー」の目的である
「地上制圧」がキルバーンによって地上の者たちに明かされますが、
ヴェルザーは現在、魔界で岩に封印されています。
そんなヴェルザーが何故地上を欲しがるのか・・・?
この辺は、実は大魔王バーンを倒したあとも「魔界編」なる展開に
続く予定もあったことによる名残らしいのですが、
それにしても、こういう続編への妄想の余地を残してくれたことで
ファンはいまだにこれをネタに語ることができるわけで、
エンディングにてほんの少しの謎を残すことは意外と良い味を出す
要素だったりするわけです。
そして、なんと言っても黒の核晶が発動したキルバーンをダイとポップが
なんとかしようとするシーン!
ダイがポップを引き離したときに、読者は気付かされます。
ダイは、「勇者」であり「竜の騎士」だったのだと。
最終戦の折、大魔王バーンと勇者ダイが対峙した際に
バーンはダイに以下の問いかけを投げていました。
余の部下にならんか?
人間は最低だぞダイ おまえほどの男が力を貸してやる
価値などない連中だ
そんな奴らのために戦って…それで勝ってもどうなる…?
…賭けてもいい 余に勝って帰っても
おまえは必ず迫害される…!
そういう連中だ 人間とは
奴らが泣いてすがるのは 自分が苦しい時だけだ
平和に慣れればすぐさま不平不満を言いはじめよる
そして…おまえは英雄の座をすぐ追われる…
勝った直後は少々感謝しても
誰も純粋な人間でない者に頂点に立って欲しいとは思わない…!
それが人間どもよ…!
(レオナの反論)違うわ! 絶対に私たちはそんな事しない…!
…それは姫よ そなたがダイに個人的好意を抱いているからにすぎん
それではバランの時と変わらん
たった一人の感情では"国"などという得体の知れないものは
どうしようもない事は公事にたずさわるそなたなら
ようわかろう・・・?
・・・だが余は違う!
余はいかなる種族であろうとも強い奴に差別はせん!
反旗をひるがえした今でもバランやハドラーに対する
敬意は変わらんよ・・・
・・・さあ!どうするダイ!
無益と判っている勝利のために生命を賭けるか?
おまえの価値を判っている者のために働くか・・・?
大魔王のこの問いかけに、ダイは「"NO"」と答えました。
そのときダイがバーンに語った言葉が印象的でした。
人間たちが好きだっ!!
おれを育ててくれたこの地上の生き物すべてが好きだっ!!!
…もし本当におまえの言う通りなら…
地上の人々すべてがそれを望むのなら… おれはっ…
おれはっ・・・!
…おまえを倒して…! この地上を去る…!!
今回の、黒の核晶が発動する瞬間にも
上記のニュアンスと似たようなセリフをダイが発言しています。
こうして自分の大好きなものをかばって生命を賭ける事が…!
ずっと受け継がれてきた…おれの使命なんだよ!!
黒の核晶をかかえながら、ポップを引き離したダイの姿をみたとき、
この言葉とともにダイが大魔王へ投げかけた言葉がダブって
胸によみがえった読者も多かったかもしれません。
こういった、ダイの「勇者」や「竜の騎士」としての使命感を
あらためて提示するという意味でも、キルバーンの再登場から
黒の核晶発動までのラストエピソードは役割を発揮していると言えます。
最後の2ページをつかって、サブキャラクターたちの
その後が描かれていたのもかなり良かったです。
この2ページ。
『ダイの大冒険』という作品は、主人公たち以外のサブキャラたちの
ドラマもなかなか見ごたえのある作品でした。
で、この2ページにサブキャラたちのドラマの決着や今後の展望などが
見てとれます。
まずは、ポップとマァムとメルル。
メルル登場時からちょいちょい描かれていたこの三人の三角関係ですが、
ポップとマァムが完全にニブチンで、メルルが超ひかえめだったために
作中まったく進展しなかったのが特徴でした。
読者もこの三人の関係の進展についてはまったく期待せずに読んで
いたんじゃないでしょうか。
これが、バーンパレス突入時のポップのアバンのしるしのゴタゴタで
一気に、ポップ→マァムが好き メルル→ポップが好き
というのが発覚して(当事者たち以外は全員知ってましたが…)
当人たちとしてはギクシャクする間もなく、すぐに最終決戦へと突入して
しまったので、これは決戦後にあらためて三人で会ったときに
さぞや気まずかったことでしょう…
そんな気まずさを克服したのか、このコマではなんと三人一緒に冒険してます!
そういえばポップ、バーンパレスでマァムに告白までしたのに
ハッキリ返事もらってないんだよね・・・
これは、もしかしてこの三人でラブコメ展開あるか!?
ということを妄想させてくれるひとコマでした。
そして、アバン先生とフローラ女王様!
なんとアバン先生、玉座らしきものにちゃっかりとおさまってます。
もうこれはケツのコンしたことに間違いはありませんが、
考えてみればフローラさまもずいぶん可哀想でしたね。
出会ったときからアバン先生に惚れてたことは明確なのに、
アバン先生ってば、魔王ハドラーを倒したらすぐに弟子あつめに
奔走するわ、デルムリン島でメガンテかまして実は無事だったのに
一切無事を報告せずに地元の洞窟にこもって延々とダンジョン攻略
ですもんね・・・。
これはバーン戦後はフローラさまがガッチリとアバン先生を拘束したに
ちがいありません・・・
ヒュンケルとラーハルト!
いっしょに旅してますけど・・・
ヒュンケル、あんた重傷で戦士引退したんじゃないの・・・?
きっといつもの"不死身"パワーであっさりと復活したんでしょう。
ヒュンケルの一番の親友はクロコダインだったはずですが、
ぽっと出で、しかも復活までしたラーハルトがあっさりとその場を
奪っていきました。
その下のコマのエイミさんもヒュンケルを奪われたひとりw
エイミさん一度告白までしてフラれてんのになー
これどこまで追いかけるつもりでしょうか・・・。
(行き着く先がちょっとコワい)
獣王遊撃隊+先代獣王+ブラスじいちゃん!
魔物たちはやっぱりデルムリン島で暮らすのが住み心地いいでしょうね。
クロコダインのおっさん、戦いがおわったら嫁探しするとか
言ってたけど、いい嫁みつかった?
ニセ勇者一行とマトリフ師匠!
ピラァオブバーンで世界が消し飛ぶ直前に、最後のピラァに
あらわれたニセ勇者たちは、マトリフに激を飛ばされながらも
ピラァ内の黒の核晶を凍らせることに成功しました。
マトリフから、
「最後にチョコっと手を出すだけで英雄になれるんだ こんなボロイ役はねぇ」
とおだてられた結果がこのコマ・・・
あきらかに金品巻き上げられてて英雄になってるようには・・・
ロン・ベルクと北の勇者ノヴァ!
このコマみているだけで目から水がでやがる・・・
ノヴァといえば、初登場時は「勇者はひとりでいい」とかそんな感じの
自己中心的ないけすかない青年でした。
それがダイをみているうちに次第に考えがあらたまっていき、
最終戦では「真の勇者とは自らよりもむしろみんなに勇気を起こさせる者だ」
という悟りに達し、命がけの行動で他の者たちに勇気を
ふり起こさせようとしていました。
ロン・ベルクはこのノヴァの行動をみて、自分も生命を賭ける
決意をして、見事に超魔ゾンビとなったザボエラを討ちました。
しかし、この戦いによってロン・ベルクの腕は崩壊し、
武器鍛冶としては致命的な深手を負ってしまいました・・・。
ノヴァはロン・ベルクの手となり、ロン・ベルクに師事して
武器鍛冶を志します。
このひとコマでは、ノヴァが熱心に槌をふるう姿と、
それを満足そうに眺めるロン・ベルクが読者の胸を打ちます・・・。
さいご、レオナ姫・・・
思えば、作中決して活躍してないわけではないのに
こんなにもヒロインとしての存在感のないキャラもいないんじゃないでしょうか…
たぶん、活躍が政治とかそういう方向だから主人公たちの向きと
合致しなかったり、恋愛方面やるにしてもダイが超絶ドライだからといった理由で
ヒロイン的においしい思いが一切できなかったんじゃないかなと思います。
(最後にダイを受け止める役も、ポップに「この役だけは誰にも渡さねぇ」とかで
譲ってもらえなかったし)
あ、でもフレイザード戦では氷漬けにされたのを勇者から助け出されてたから
そこがピークか・・・。
バーンパレス突入前からは突然キャラ的に優遇されだしたんですけどね。
フローラ様からしるしを与えられてアバンの使徒と同格に格上げされたり、
アバンですら身につけられなかった大破邪呪文ミナカトールを覚えたり、
アバン本人から、アバンの後継者役のお墨付きをもらったり、
あげく、大魔王との戦いでおっぱいポロリまでしてしまうんですよ!
おっと、最後のは失言でした・・・。
とにかく、ここまでやってる彼女になんでこんなに
ヒロインイメージが付かないのか…
この作品最大の謎かもしれないです・・・。
・・・とまぁ、こんな感じで『ダイの大冒険』の最終回は
さまざまなことを思い起こさせてくれる非常に良質な
最終回だったと思います。
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