ある作品の最終回を取り上げて徹底的に語るコーナーです。
今回は『シャーマンキング』の最終回について語ります。
コーナーの性質上ネタバレ全開となりますので未読の方はご注意ください。
週刊少年ジャンプにて6年以上にもわたって連載された
長寿連載作品ですが、連載末期はアンケート順位も低迷し、
あえなく打ち切りによる最終回を迎えました。
その終わり方のインパクトたるやなかなかのもので、
当時はちょっとした話題になったものです。
今回は、そのあたりのことに触れつつ、
のちに完全版にて真の最終回を迎えるまでを
追ってみようと思います。
では、どうぞ
最終回直前まで
『シャーマンキング』は、500年に一度行われる
世界中のシャーマンの中から星の王を決めるという
「シャーマン・ファイト」と呼ばれる大会の物語です。
シャーマンキングを目指す主人公・麻倉「葉(よう)」と、
1000年まえのシャーマンファイトから転生を繰り返して
参加しつづけている、葉にとっては先祖(転生した肉体的には双子の兄)
にあたる、麻倉「ハオ」との物語でもあります。
ハオは、作中における「ラスボス」であり、
葉にとっては倒すべき強大な敵となります。
しかし、死を乗り越えるたびに強くなるシャーマンの性質上、
1000年まえから転生を繰り返しているハオの巫力は強大で、
とてもじゃないですが葉では敵いようがありません。
そこで、葉と仲間たちはシャーマンファイトの大会の
第二トーナメントをわざと辞退し、ハオがシャーマンキングと
なる直前を狙って叩くことを計画します。
シャーマンキングとなる者は星の王となる直前、
仮死の眠りにつくことになります。
そのときこそがハオを倒す唯一のチャンス・・・
シャーマンファイトに優勝したハオを追い、
葉たちは王の社を目指しますことになります。
王の社にたどり着く道中には10のプラントがあり、
それぞれのプラントを十祭司が守っています。
葉たちはプラントを守る十祭司たちと戦いつつ、
ハオのもとへと急ぎます・・・。
最終廻「おやすみ」
何人かの十祭司を倒し、着実にハオのもとへと近づいていた
葉たちですが、さすがに巫力の消耗が激しく、
十祭司のひとりカリムの高原プラントで一泊することになりました。
その夜、地上で葉たちの帰りを待つアンナはまん太に語ります。
変な話ね
普通なら戦士達はとらわれの姫を助ける
ために魔王をやっつけに行くんでしょうけど
葉達はその魔王を助けようとしている
でも それもそのはず
だってこのお話のお姫様は執念という魔王に
とらわれたハオなんだから
この話を聞いたまん太は思わず吹き出します。
そう考えるとたしかに笑えます。
アンナはハオの人間への憎悪について、
1000年経っても死んでも治らない
バカでしつこくてどうしようもない
ちっちゃいかわいい眠り姫なのよ
とボロカスに酷評します。
そして、アンナの視線はもうハオ戦後を見据えていました。
アンナが経営を夢見るふんばり温泉の今後について!
アンナにとって真の敵はハオなんかではなく、
不景気でした・・・。
そして、葉たちの戦いもこれから。
ハオの待つ王の社への道はまだまだ遠いです。
明日にそなえて・・・
「寝るぞーーっ!!!」
・・・その夜、まん太は不思議な夢をみました。
深い深い海の中でハオがつぶやいた
「おやすみ」
葉たちのもとに集う仲間達
プリンセスハオ
最終廻を語れ!
・・・。
ええーっ!? おわりぃ!?
実に唐突かつ意味不明な最終回でした。
…いや、意味はわからなくもありません。
たしかに最終回冒頭でのアンナとまん太のやりとりで
ハオが魔王ではなく姫だという話がありました。
にしても、最後の最後にまん太がみた
「プリンセスハオ」の夢でオチるというのは
ちょっと正気の沙汰とは思えません。
最終コマの左端にちょこんと書かれた「みかん」の
イラストがこの物語が「未完」であることを
あらわしており(ちなみに扉絵でも葉がみかんを持っている)、
この「みかん」オチ、「プリンセスハオ」夢オチと、
ダブルでパンチの効いた最終回は当時のジャンプ読者にとって
伝説の最終回となりました。
なぜこのような最終回になってしまったのか?
その真相は、声優・林原めぐみ(アニメでアンナ役)さんの
ラジオにて武井先生直筆の手紙が読まれることにより
明らかになりました。
ニコ動で当時の放送を探したらありました。
『シャーマンキング』最終回当時の激震っぷりもよくわかるので
あわせてお楽しみください↓
林原めぐみのTokyo Boogie Night(2004年9月19日放送/ゲスト:高山みなみ)
手紙によると、『シャーマンキング』の打ち切りの宣告を
受けたのは最終回の8週前だそうです。
十祭司戦の途中ですが、無理にでも物語を畳もうと思えば
十分に可能な範囲ではあります。
でも、作者である武井先生はそうはしませんでした。
ダイジェストによっての結論だけみえるのでは
そこにはまるで意味はなく
この作品にとって一番大切なことは
そこへ至る「過程」だと考えたからです。
それは、ただのわがままかもしれないけど
僕の中では葉とハオ、それにアンナやみんなの
最後のふんばりのイメージがしっかりとありました。
こればっかりは絶対省略したくなかったのです。
そうして中断という道を選ばざるを得なくなったのですが
とりあえずの結末は必要で、それならまず
現状だけははっきりさせておこう、
という考えに至り、あの形になったわけです。
(ラジオ『林原めぐみのTokyo Boogie Night』にて武井先生の手紙より)
ダイジェストによる完結を迎えるよりは、
素直に自分の描きたいペースで物語をすすめ、
やがて期限の打ち切り回を迎えてしまった・・・。
ということになります。
このあと、手紙は「なぜハオがプリンセスでなければいけないのか?」
という話になってしまいますが、これはとりあえず置いといて、
その中で語られたいずれ続きを描く
という強い意志のこもった言葉が印象的でした。
『シャーマンキング』…。不思議な作品でした。
「なんとかなる」
作中、主人公の葉がよく口にしている言葉です。
これはなんの考えもなしに無責任に言っている言葉ではなく、
「自分のベストを貫いて精一杯にやっていれば
いつかはそれが形になる」というような、
限りなく「なんとかする」に近い、そこに葉特有のユルさが
くわわって、「なんとかなる」というマイルドな表現に
なっている深みのある言葉です。
そんな主人公・葉の魔法の言葉の通り、
不本意な「みかん」エンディングを迎えてしまった
『シャーマンキング』という作品はなんと真の最終回を
迎える日がやってきます。
シャーマンキング完全版刊行
伝説の「みかん」最終回を迎えてから約4年の月日が流れました。
2008年。
全シャーマンファン待望の、真の完結編を含んだ
『シャーマンキング』完全版の刊行が開始されます。
ストーリーの続きの描き下ろしページ数はなんと382ページ!
各巻冒頭のキャラ紹介など、カラーイラスト描き下ろしは
なんと482点!!
漫画メディアの完全版における加筆修正の規模としては
史上最大級ではないでしょうか。
全27巻の完全版の26巻目の途中。
伝説の「プリンセスハオ」で「みかん」な最終回の次のページから
自然に始まった第287廻「グッドモーニング ムー大陸」は
ファンには感慨深かったと思います。
その後もみどころの多い回が続き、武井先生が
なぜこの過程を省略したくなかったのか伝わってきます。
ホロホロの持ち霊・「コロロ」の正体は
ホロホロが幼い頃、最悪の形で死に別れた
幼なじみの女の子でした・・・。
葉のシャーマンファイト参戦のきっかけをくれた
十祭司・シルバとの因縁の対決・・・。
提示されるシャーマンファイトの謎・・・。
まん太の「プリンセスハオ」な夢のつづき・・・。
そして・・・
ハオとの最後の対決はグレートスピリッツの中で
行われます。
すべての魂が還る場所であるこのグレートスピリッツに
ハオとかかわりのあった全員の魂が集結します・・・。
真・最終廻「the Last Words」
ふんばりが丘の駅にたたずむ一人の少年。
それは、もう6歳にもなる葉とアンナの息子
麻倉 「花(はな)」でした。
そして、花のもとへ続々と集うかつての伝説の戦士たち。
戦士たちは再会をよろこび、"あの日"を懐かしみます。
"あの日"―――
グレートスピリッツのハオのコミューンに
みんなの魂が集ったあの日・・・。
アンナやまん太が地獄を奔走して、ハオの母親「麻の葉」の魂を
ハオのもとへと連れてきました。
ハオのすべての憎しみは母親を殺されたときから始まっており、
その憎しみの原動力となっている母親本人から
お説教+母の愛をもらったハオの憎しみの心はついに折れ、
憎しみにとらわれていたハオの魂は救われました。
ハオは"シャーマンキング"として
残された時間の中で葉たちがどう地上を変えるのか
少しの間見守るといいます。
あれから7年・・・。
葉たちは自身のシャーマン能力を使い、
世界をより良い方向へ導くよう努力を
重ねています。
そうして このふんばりが丘に
あの懐かしい日々が1日だけ帰ってきた
少しだけ新しいメンバーも増えたけど
昨日の続きのような何も変わらない日常
大きくなってもみんなみんな昔のまま
そういえばぼくも1cmだけ背が伸びました
今はアメリカの大学でシャーマンと経済の両立を
研究していますがなかなかかみあわず苦労の日々です
それでも みんなも答えを探して
がんばってるから ぼくだってがんばれる
答えが見つかるその日まで
ぼく達の旅は死んでも終わらない
まん太
西岸寺の屋根瓦の上。
王とネコは再会し、500年ぶりの仲直りをしました。
語り尽くせ、真・最終廻!
さーて、いかがでしたか?『シャーマンキング』の真の最終廻!
「プリンセスハオ」で「みかん」な最終廻はほとんど伝説に
なっているので有名ですが、こうして完全版でちゃんと完結した
最終廻を読んだ人は少ないかと思います。
完全版でちゃんと最後まで読むって結構敷居が高いですからね…。
でも、ちゃんとそれに見合った感動は待っています。
シャーマンキングの完全版の膨大な加筆修正のひとつとして、
真・最終廻に向けた伏線となるパートが追加されています。
それは、完全版・22巻の巻末から始まっていました。
この記事だけ読むと真・最終廻にぽっと出てきたように見える
葉とアンナの息子「花」ですが、実は完全版22巻から登場しているのです。
それは、22巻から必ず巻末に挿入されるようになった
「ふんばりの詩」という短ページの加筆パートにて、
2007年を生きる麻倉 花がかつての戦士たちと
会えるように尽力している姿がちょいちょい伺えるのです。
読者としては「あれ、なんだろうこの子…」と疑問を
いだくことになりますが、(葉の息子だとはハッキリ描かれない)
短ページのパートでしかも巻末のため、すぐに
気持ちが次巻に切り替わります。
しかし、着実にもやっとしたものはどんどん読者の
心に積もっていくわけで、それが22巻〜26巻まで
積もったところで、最終巻の真・最終廻が来るわけです。
「ああ、ここにつながった…」
とカタルシスを感じることとなります。
この演出は本当に見事でした・・・。
もちろん、この演出がなくても素晴らしいんですけどね。
最後にちゃんとハオが救われたというのがとても良かったです。
ラスボスは宿命的に主人公に倒されるものですが、
そうはならなかった。
最後に全員集合してのハオの救済。
このイメージは、武井先生が真・完結編のネームを切り始めた
時点ですぐに沸いたアイディアだそうですが、
「ハオの救済」という結末自体はそれよりもずっと前から
決まっていたと思います。
ここで思い出すのが、「プリンセスハオ」です。
ラスボスであるはずのハオがなぜ「プリンセス」なのか?
それは、「プリンセス」が宿命的に救済される存在だから
ではないでしょうか。
武井先生がラジオの手紙に書いていましたが、
「プリンセスハオ」は決してふざけて描いたわけではないといいます。
そのうえで、ハオがなぜ「プリンセス」でなければならないのか
考えてほしいと語っています。
つまり、武井先生はハオを救済したかったのだと思います。
でも、打ち切りによるダイジェストの形をとっては
絶対にそういう展開へ持って行くことはできない。
そこでとりあえずの結末として、ハオ救済のイメージを
提示する「プリンセスハオ」という形をとった・・・。
真・最終廻を読んだあとに、「プリンセスハオ」を
読むとどうしてもそのようにしか考えられません。
最後の最後、ハオとマタムネらしきネコが微笑み合う場面で
物語は完結します。
マタムネとハオの関係については、「恐山・ルヴォワール」編を
ちゃんと読んでいないと理解することができないのですが、
要はずっと仲違いしていた親友同士とでも思えば、
それに近いでしょうか。
これをもって、ハオは本当に救われました。
これからは「シャーマンキング」として500年間
地上の者たちを見守っていてくれるでしょう。
・・・と、こんな感じです。
『シャーマンキング』の最終回は、「未完」の苦節を経てもなお
作者や読者のあきらめきれない気持ちによって、
最良の形での結末を迎えることができた稀有な最終回でした。
「なんとかなった!」
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なお、現在、葉の息子・花を主人公とした『シャーマンキング FLOWERS』が
ジャンプ・改にて連載中です。
こちらの作品についてもある程度物語が進んだら語ってみたいですね。
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