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Channel: 紫の物語的解釈
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コミックボンボンに現れた神作『王ドロボウJING』について語る

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現在は休刊してしまって久しいですが、かつて『コミックボンボン』という
児童向け月刊漫画雑誌がありました。
玩具やゲームなどとタイアップした漫画が多く掲載され、
ライバル誌の『コロコロコミック』と共にちびっこたちの
遊びの火付け役であり続けました。

コミックボンボンがコロコロコミックと凌ぎを削っていた頃、
当時のちびっこは源平合戦のごとく「ボンボン派」と「コロコロ派」
に別れ、血で血を洗う争いを繰り広げたといいます・・・。

1990年代のボンボンは、「ロックマン」や「がんばれゴエモン」
などのゲームのコミカライズや、「ガンダム」シリーズのコミカライズ等、
とにかくメディアミックスによる作品が中心でした。
そんなメディアミックス中心のボンボンに彗星のごとく登場した
完全オリジナルの漫画作品がありました。

『王ドロボウJING(ジン)』

作者は熊倉裕一という新人の漫画家でした。
何の前触れもなく登場したこの作品は、当時の少年になりかけの
児童にとっては、非常に衝撃的な作品となったのでした。


  王ドロボウJING概要



『王ドロボウJING』は、そのタイトルの通りドロボウの物語です。

 輝くものは 星さえも 尊きものは 命すら
 森羅万象 たちまち盗む 王ドロボウ

というキャッチコピーの示す通り、いわゆる怪盗モノの作品で、
題材自体は真新しいものではありませんでした。

主人公は王ドロボウの少年・「ジン」。
言葉をしゃべる鳥の「キール」とコンビを組んでいます。



キールがジンの腕と一体化して光弾を放つ必殺技「キールロワイヤル」が
見せ場を盛り上げます。
こういうギミックは子ども心に燃えるものがありました。
女好きでおちょうし者なキールが武器のようになるギャップにも
面白いものがあります。



第一話は、ジンが「ダブルマーメイド」という巨大な宝石を求めて
ドロボウの都を訪れるところから始まります。
都の中心にそびえる巨大な塔のなかにダブルマーメイドが存在するという
情報を得たジンは、奇抜な手段をもって塔の最上階へとたどり着きます。
そこに待っていたのは囚われの結晶生物。
それが、ダブルマーメイドの正体でした。

このように、ファンタジー世界の怪盗モノということで、
物語は目的の宝物をめぐる冒険活劇の要素が濃いものとなります。

斬新な要素はあまりありませんが、絵もボンボン連載陣の中では
上手く個性的で魅力的であり、お話も児童向けらしくわかりやすく
面白い内容の第一話でした。
当時リアルタイムでボンボンを読んでいましたが、
『JING』第一話を読んだ感想としては、

「なんか面白そうな漫画が始まったなぁ」

という程度のぼんやりとしたものでした。
ところがしかし、この作品、後にどんどん化けていくのです。


  洒落の効いたセリフまわし



第2話、3話と続く「ブルーハワイの幽霊船編」では、
幽霊船に偽装したカジノ船が物語の舞台となります。
カジノで行われる様々なゲームに勝ちまくり、金を稼ぎに稼ぐジン。
ところが、このカジノの正体は人が金で遊ぶ場所ではなく、
金が人間をもてあそんでいる場所でした。
人の欲を喰らう金貨虫が、このカジノでの大量の現金の正体でした。



そのカジノのボスである金貨のかたまりの化け物と、
ジンのやりとりが非常に洒落が効いていて秀逸でした。

「おとなしく貯金されてるのもツカレるねーっ!フゥーー!!」
「さて・・・ツケは返させてもらうぜ!!」
「小銭(バラバラ)にくずしてやるぜ!!」
「無理無駄無謀・・・あいにくとこまかいのがなくてねぇ」

「ブルーハワイの幽霊船 編」は"金"に関するお話が中心でした。
その"金"と絡めたセリフが、ジンと敵とのやりとりに出てきたのですが、

 小銭(バラバラ)にくずしてやる ⇒ あいにくとこまかいのがなくてねぇ

とか、金に関するシャレが上手いこと効いてて、非常にカッコいいです。

他にも、"時間"に関係する物語である「時の都アドニス 編」においての
シャレオツなやりとりで、こんな感じのやりとりや、

「今日の入場時間は2時間37分29秒前に過ぎた・・・。でなおしてこい」
「だいたいお前らのような完全不審人物などコンマ1秒たりと入れはせん」
「は・・・計れねぇ、こいつの動き・・・精密正確なアドニス時計でも・・・」
「ネジ巻きなおしたほうがいいぜ・・・」
「クダ巻いてるヒマがあったらな!」


"仮面舞踏会"で有名な国・ザザを訪れた際には、キールとジンが
こんなやりとりもしています。



「皆さんもごぞんじのとおりこの仮面武闘会(マスコリーダ)の優勝者には…」
「将来ザザの支配者となる"世継ぎ"の座につく権利が与えられるわけですが…」

「マスコリーダ!? マスカレードじゃねぇの!!?」
「CORRIDA(コリーダ)…闘牛場だよ。俺達が闘う様をお客さんが楽しむ寸法らしいぜ」
「じゃじゃじゃ、仮面舞踏会は仮面武闘会…だったってこと?」

と、まぁこんな感じで『JING』ではレベルの高い言葉あそびめいた
セリフが頻繁に登場します。
その秀逸さは回を追うごとにだんだんと洗練されていき、
児童向け雑誌に連載されている漫画とは思えないほどに
芸術的になっていったのでした。


  ジン・ガール



『JING』は、「時の都アドニス 編」や「不死の街リヴァイヴァ 編」など、
複数回から構成されるシリーズごとに独立した物語で成り立っています。
各シリーズでは目的のお宝や舞台が異なり、基本的にシリーズ間のつながりはありません。

各シリーズには、「ヒロイン」が設定され、物語に華を添えます。
このヒロインはシリーズごとに異なり、ファンからは「ジン・ガール」と呼ばれます。
(上の画像は「時の都アドニス編」のジン・ガール「ミラベル」)

シリーズごとに異なるヒロインに出会えるのも『JING』の魅力のひとつ!



ミラベルも良いですが、個人的には「JING in 第七監獄(セブンスヘブン)編」の
「ベネディクティン」が好きです。
可愛い!可愛いは正義!


  ちびっこには分かりづらい? 芸の細かい演出

もともとアメコミチックで演出も個性的だった『JING』ですが、
連載が進むにつれて特に芸の細かい演出が目立ちました。



巨大な風船をもてあそぶシニョーレ・ゴブレットの姿は、
『チャップリンの独裁者』のシーンのパロディかと思われます。
ちびっこにはわからんだろーこれー。
自分は小学生の頃にこのシーンを読んでいて、後年『独裁者』を
観たときに「あっ、ジンでやってたシーンだ!」となりました。
うーん、ポロロッカ現象。
他にも、「時の都アドニス編」には『ピーターパン』のモチーフが
随所に散りばめられていたり、「爆弾生物ポルヴォーラ編」では
『星の王子様』のモチーフが散りばめられています。

元ネタ系のみならず、場面ごとの演出も迫力があります。



「ZAZAの仮面舞踏会 編」でのこの場面。
世継ぎ争いで息子を殺された伯爵夫人が嘆き悲しみ、
最終的に怒りに燃える場面です。

「どうして男の方は争い事がお好きなのでしょうね…
 そんなにお好きなら・・・」

ここで2コマ溜めての、般若の面の演出!
迫力あるわ〜。
ザザ編が"仮面"に深く絡んだ物語なのと、伯爵夫人が常に
能面のような無表情の仮面を付けているキャラなのが
さらにこの演出を際立たせています。

こういう場面ごとの面白い演出は、取り上げていたらきりがないほど
『JING』の中にはあふれているのです。


  熊倉先生の画力の伸び代は異常!括目して見よ

連載開始当初から画力の高かった熊倉先生ですが、初期は
いかにも少年マンガ!という印象で飛びぬけて驚くほどではありませんでした。
ところが、連載が進むにつれて熊倉先生の画力はどんどん上がって行き、
連載後期にはもう1コマ1コマが美術画レベルになりました。

連載初期と後期で画力がけた外れに変わっていた漫画家さんは
それなりにいると思いますが、熊倉先生はその最高峰と言っても
いいかもしれません。



「爆弾生物ポルヴォーラ 編」より。
マグマうずまくヴィーナス焦原をゆくジンたち。
焦原のマグマはあらゆる形にそのすがたを変え、ジンたちを襲う。
焦原の果てでジンの前に現れたのは、メデューサのような
禍々しいマグマの塊でした。

これはボンボン読んでた当時度肝を抜かれました。
ファイナルファンタジーのボスのような禍々しい敵が
スクリーントーンを駆使して描かれてるんですから。
このマグマの敵、あっさり倒したわりにインパクトに
残りまくってます。



「不死の街リヴァイヴァ 編」より。
不死の秘術のありかを示す暗号のような詩を解読し、
その在り処を目指すジンたち。

 のらくらアーサー その日ぐらし
 蛇のアクロバットを ためつすがめつ
 ねむれる森の老女の唇を盗んだ

この詩の「老女の唇」の部分。
これが、「風景そのものが老女の顔だった」という驚きの演出です。
ネタ思いついても、こんなだまし絵のような凝った演出を連載漫画に
描いてしまうとは・・・。スゴすぎます。
見開き2ページを使ってあらわれた老女の顔の風景をみたときには
謎の感動を覚えました。



連載末期はもう背景画のレベルが大友克洋並みになってて驚きます。
線も細かくなり、とても児童向け漫画誌に連載されていた作品とは
思えません。



背景のみならず、人物の描き方もどんどんと進化しています。
初期はいかにも少年マンガのキャラクターという感じの
人物の表情も、だんだんと実写や劇画の要素が入り、
表情の演出が多彩になりました。


そして、なんといっても最も度肝を抜かれたのがカラー画でした。
ボンボン連載期最後のシリーズである「色彩都市の少女 編」の冒頭。
カラーの見開きページにおどろくべき背景画があらわれます。



こ、これはもう既に一枚の絵画!
あまりの美しさに、このシリーズを収録した単行本には、
このカラーページがそのまま収録されました。
少年漫画のコミックスでは雑誌掲載時カラーであった
ページも白黒二色印刷で収録されるのが普通です。
白黒にしてしまうのがもったいないほどに、
美しいカラーページだったということです・・・。

「色彩都市」編では、"絵画"が物語の重要なファクターとなっており、
カラーページのみならず本編の白黒ページでも絵画的な
演出が多数みられ、このシリーズそのものが芸術といって
良いような作品でした。


  マガジンZへ移籍。ジンの物語は続く・・・

「色彩都市」編を最後に、『JING』はボンボンでの連載を終了し、
同じ講談社の「マガジンZ」へ移籍します。



マガジンZ移籍後は、タイトルを『KING OF BANDIT JING』として
ジンの物語は続きます。

物語のスタイルは『王ドロボウJING』と同じく、複数回からなるシリーズもの
となり、絵については連載末期の芸術的な絵がそのまま進化したような、
さらに描き込みの細かくされた絵となり、物語内容はシリアスで重厚なものと
なりました。

残念ながら、現在では「マガジンZ」は休刊となり、
『KING OF BANDIT JING』も単行本7巻を最後に
連載が途絶えています。
完結という扱いにはなっておらず、休載の扱いのようですが
連載再開は未定となっています。

本当に素晴らしい作品だった『JING』。
連載再開を願って日々生きております。

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