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Channel: 紫の物語的解釈
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いろんな漫画作品の「食事シーン」を見比べてみる

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思いだした頃に書いてる「いろんな作品の○○を見比べる」です。
今回は、いろんな漫画作品の中の「食事シーン」を取り上げて
物語中に「食事」がどのような効果をもたらしているかを
考えていこうと思います。
とりあえず、家に転がってる漫画を拾い読みしただけでも
あるわあるわ食事シーンの数々。
それが物語の本筋にかかわる重要なシーンだったり、
なんてことない一場面だったりと、食事シーンの使われ方は
実にさまざまでした。

以下にまとめましたので、どうぞ↓
なお、もともと食事シーンありきの料理漫画やグルメ漫画は
選定から除外してます。
あくまでも、「物語の中の食事」という目で見ていこうと
思います。


  空腹が満たされたとき、人は変わる
  〜『ONE PIECE』サンジのピラフ ,『銀の匙』たまごかけごはん





『ONE PIECE』より。
あらくれコックが集う海上レストラン「バラティエ」にやってきた
餓死寸前の海賊の男・「ギン」。
ギンはコックたちに銃を突きつけ、食事を要求するが、逆にバラティエの
コックに打ちのめされ、放り出されてしまう。
空腹のなか死を覚悟したギンだったが、バラティエのコック・「サンジ」は
ギンにピラフを差し出して「食え」とだけ言った。
ギンは夢中でピラフをむさぼり、涙を流してサンジに感謝した。

ギンは東の海最強といわれるクリーク海賊団の一味でした。
ところが、偉大なる航路(グランドライン)に挑んだクリーク海賊団は
壊滅寸前に陥り、ギンも餓死寸前のところを海軍に捕えられました。
その海軍の緊縛から逃れての海上レストランへの訪問だったわけですが、
ギンはこの時点では餓死寸前ながらも最強の海賊団の戦闘員であるという
誇りも驕りもあったことでしょう。
いつもの調子で銃を突きつけ、食事を要求したギンでしたが、
海上レストランのあらくれコックにボコられ、追い出されることに
なってしまいました。
そこへ、サンジのクソ美味いピラフがぶっきらぼうに差し出されたわけです。
おどろくほど自然に差し出された食事に、ギンは夢中でありつきます。
そして、食事が終った頃にはギンは素直になっていました。
一度の食事が、ひとりの人間を変えるさまがここでは描かれています。






『銀の匙』より。
鶏の卵が肛門から出てくることを知って生卵を食べることに
抵抗を感じるようになった八軒だったが、重労働のあとの
絶望的な空腹感に負け、ついに生卵を熱々ごはんの上にオン!
「超!!!うめぇぇぇぇぇぇ!!!」
八軒は「肛門のくせに!肛門のくせに!」と叫びながら
たまごかけごはんをむさぼった。

八軒は都会の進学校から農業高校へ入学することになった少年です。
言ってみれば都会暮らしの潔癖症気味な男子なわけですが、
それが農業高校のワイルドの荒波にもまれて、さあたいへん!
農業高校でのカルチャーショッキングな生活が八軒を少しずつ
変えていくのですが、このたまごかけごはんが八軒の変化の
きっかけとなり、象徴のようにもなっています。


  はじめての料理は成長の味がした
  〜『よつばと!』よつばのホットケーキ





『よつばと!』より。
絵本に触発され、ホットケーキを作ることにしたよつば。
とうちゃんの指導のもと、ホットケーキを焼くことに挑戦する
よつばだったが、何回やっても生地が上手く焼けない。
泣いたりすねたりしつつも、よつばはあきらめない。
そして、何度目かの挑戦でついによつばにも上手に
ホットケーキを焼くことができただった!

いつもどんなことにも楽しくチャレンジするよつばですが、
このホットケーキの回では珍しく、うまく焼けない自分にいらだって
泣いてしまいます。(やんだの意地悪なヤジのせいかもしれませんが)
とにかく苦労してつくったホットケーキ。
自分でつくったホットケーキを頬張るよつばの顔には、
満足そうな笑顔が浮かびます。
いつもの無邪気な笑顔とは少し違う、どことなく大人びたような表情です。
ホットケーキを通じて、よつばの成長がみられる場面でした。


  ジョジョの奇妙なイタリア料理
  〜『ジョジョの奇妙な冒険 第4部』トニオのサラダ





『ジョジョの奇妙な冒険 第4部』より。
杜王町にあたらしく出来たイタリア料理店に入る億泰と仗助。
イタリア人の料理人・トニオが一人で切り盛りしている店で、
メニューはなく、トニオが客の顔をみて出す料理を決めるのだという。
前菜として出された「モッツァレラチーズとトマトのサラダ」を
食べた億泰はそのあまりの美味さに感動するが、次の瞬間
億泰の身体に変化が起こる!

サラダを食べた億泰は肩がかゆくなってきたと肩をこすり始めます。
やがて、億泰の肩からはみるみる垢が掻きだされるのですが、
その量が尋常でなく、まるで肩の肉がえぐれてきているよう!
さすがに傍から見ていて異常さを覚えた仗助でしたが、
億泰は「肩こりがなくなった!」と言います。
食事を続ける中、次々と億泰の身体に起こる異常事態が
サスペンス要素となり、読者を楽しませます。
さすが荒木先生というか、なんというか。
食事そのものをサスペンスとして描くのは荒木先生くらいでしょう。


  悲しいときこそ、大好きな料理を
  〜『3月のライオン』あかりさんの晩ごはん





『3月のライオン』より
学校で友達をかばったためにいじめにあってしまうひなちゃん。
泣きながら帰ったひなちゃんを待っていたのは、いつも通りの
あかりさんのちゃぶ台いっぱいのあたたかい晩ごはんだった。
あかりさんの作ったごはんはひなちゃんの大好きなものばかりだった。

美味しいごはんの並んだ食卓を囲んでも悲しいときは悲しい。
そんな場面です。
いじめにあったひなちゃんの悲しみと、そのひなちゃんの
大好物の並んだ食卓という対比がなおさら読者の感情をゆすります。
泣きながらもたくさん食べたひなちゃん。
食事がキャラの複雑な感情を効果的に表現した場面でした。


  小難しい話のあいだ、おやつで和んでください
  〜『DEATH NOTE』Lのおやつ



『DEATH NOTE』は会話シーンやモノローグの多い漫画のため、
絵的に地味な場面が続きがちです。
そんな地味な絵づらに変化をつけようとしたのか、
Lがひたすら考えをめぐらせているシーン等ではしばしば
「おやつ」が登場します。
これが、ケーキだったりドーナツだったり、生ハムメロンだったり
実にバリエーションに富んでます。
後半、どんどん悪ふざけに走って行ったイメージが・・・。
いずれにせよ、本編とまったく関係のないお遊び的要素で
食事シーンが使われています。


  番外編:架空の料理いろいろ







『魔法陣グルグル』に登場する「ギンギー料理」のような架空の料理は
読者にはまったく味が想像できない分、妙なおかしさを演出する効果があります。
同じガンガン系で『ジャングルはいつもハレのちグゥ』のポクテとかもそうですね。
一体どんな味がするのやら・・・。
「ギンギー料理」も「ヨジデー料理」も「マタデー料理」も誰も
味の感想を言ってません。
結局、美味いのか不味いのか!?



ジャンプ連載中の『トリコ』は架空料理オンリーのグルメバトル漫画ですが、
こちらはちゃんと読者に味のイメージが伝わるように描かれています。


  食べることとは何か
  〜『めだかボックス』希望が丘水晶の満漢全席
  〜『xxxHoLiC』四月一日の料理



『めだかボックス』より
黒神めだか主催の宝探し(トレジャーハンティング)第五関門となる
「料理対決」にて、ロボットである「希望が丘水晶」は満漢全席を料理した。
水晶は料理対決のために用意された食材が対決後に処分されると知り、
そのすべてを使用して料理を用意した。
ロボットである水晶には生命が無い。ゆえにその生命を尊重したのだという。
これを聞いた審査員・米良孤呑は水晶を「合格」とした。

「生きることは食べることで、食べることは殺すことだ
 それがわかってる奴の料理が極上でなければ私は腹を切るよ」

めだかボックスの「宝探し(トレジャーハンティング)編」は
バラエティに富んだ話が楽しめるシリーズです。
暗号解読、読書対決、神経衰弱対決、とんち問答 etc ...
そのひとつがこの「料理対決」です。
ここでは料理の内容よりもむしろ、生命のない「希望が丘水晶」
というキャラが生命を尊重して、食材をムダなく調理したという点に
面白みがあります。
もともとこのシリーズは、黒神めだか後継者の中学生五人組の
キャラ紹介も兼ねたシリーズであり、ロボ中学生・水晶の
人となりがこの料理対決の話で大いにわかりました。
また、「食べるということ」の本質にも少し触れている話でもあり、
米良孤呑の語った「生きることは食べることで、食べることは殺すこと」
という言葉も読者の心に重く響きます。
そういうこともすべて含まれた象徴としての、「満漢全席」でした。

なお、水晶が料理した満漢全席は、宝探しの参加者たちがすべて
美味しくいただきました。




『xxxHoLiC』より
いつも四月一日の料理をぶっきらぼうに食べる百目鬼。
百目鬼は納得した料理しか口にしないという。
四月一日は、最初はそのことを好き嫌いがある程度にしか
認識していなかったが、どうやら侑子さんによると違うらしい。

「信じられるものしか食べないってことよ」

「食べるってことはとても大切で幸せで
 そして、とても怖いことなのよ」

『xxxHoLiC』は四月一日くんの美味しそうな料理が印象的な作品です。
毎回、百目鬼が食べたいものをぶっきらぼうにリクエストして
四月一日が文句を言いながらも作ってくるというコント的な場面が
挿入されますが、この話では百目鬼が四月一日の料理を食べること
について、掘り下げがなされます。
百目鬼は「食べることを納得したものしか食べない」と言います。
それについて、侑子さんは「信じられるものしか食べない」と解釈します。
これは「どこの誰かもわからない人間が作ったものには何が入ってるかわからない」
的な意味とは少し違って、百目鬼は料理を食べることで、その料理を
作った人間の「気持ち」までも味として感じとってしまうのです。
この場面の少しあと、百目鬼は四月一日のもとに料理を教わりに来ている
女性の料理を食べますが、「作った奴の何の性質も癖も感じなかった」
「気持ちもな」とコメントし、箸を置いています。
そういうわけで、百目鬼は「信じられるものしか食べない」わけです。

「食べるってことはとても大切で幸せで
 そして、とても怖いことなのよ」

という侑子さんの言葉も相まって、「食べるということ」は
どういうことなんだろう?
と考えさせられる話でした。


・・・と、こんな感じで漫画作品における食事シーンもいろいろでした。
「食べる」ということは、人間生活の最も身近にある行動です。
この行動が物語に取り上げられるとき、それはさまざまな意味を持ちます。
食事をとる人物の心理的な変化や感情の象徴、
さらには食事そのものがドラマになったりもします。
その果てに、「食べる」っていうことは一体どういうことなんだろう?
と少々哲学的な考えも想起させられます。

まぁ、そこまで深く考えなくても、キャラが食べてる料理が
美味そう or 不味そう ってだけでも読んでいて楽しいものです。
食事シーンに注目して漫画を読むのもなかなか面白い体験でした。


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