【地獄先生ぬ〜べ〜】は、『ドラゴンボール』『幽遊白書』『スラムダンク』などが
連載されていた、いわゆる「ジャンプ黄金期」に連載が始まり、それから約6年にも
渡り連載が続いた作品です。
黄金期を生き延びて連載が続いた作品なので、安定した人気を誇った印象がありますが、
実際には人気のふるわなかった時期も度々あり、何度か打ち切りの危機に
さらされたようです。
文庫版のおまけ「メイキング・オブ・ぬ〜べ〜」では、アンケート低迷のたびに
あれこれとてこ入れを考え、なんとか打ち切りをしのいできた様が語られます。
今回は、「メイキング・オブ・ぬ〜べ〜」を参考に、【地獄先生ぬ〜べ〜】という
作品が、いかにしてジャンプ名物・打ち切りサバイバルレースを生き延びたのかについて
迫ることにします。
では、どうぞ
いきなり人気低迷してた序盤
1993年、原作・真倉翔、漫画・岡野剛 両先生による【地獄先生ぬ〜べ〜】が
週刊少年ジャンプ誌上にて連載を開始します。
この作品は両先生のデビュー作というわけではなく、共に一作目打ち切り作家であった
両先生を編集部がコンビを組ませたことによって誕生した作品となります。
ぬ〜べ〜新連載第一話のアンケート順位は3位。
高順位に見えますが、『バクマン。』を読んでれば新連載第一話はご祝儀的な意味で
これくらいの順位は行くことはわかります。勝負は二話目から・・・なのですが。
どうやら回を重ねるごとに少しずつ順位が落ちて行き、
このままではヤバい・・・というところまで落ちてしまったようです。
ぬ〜べ〜の話のスタンスは、基本的に一話完結スタイルです。
霊能力を使う主人公が据えられてますが、話のメインテーマは霊との戦闘ではなく、
あくまでも霊に苦しめられている生徒を救う教師といった、「教師モノ」という
部分が、特に連載序盤は大きなウエイトを占めていました。
まぁ、これが黄金期のジャンプ漫画の中では地味でパッとしなかったのだと思います。
ところが、第6話「河童と鉄棒」の巻でアンケートの順位がグン!と上がります。
この6話の存在によって、なんとか打ち切りをまぬがれたぬ〜べ〜。九死に一生でした。
しかし、一話完結モノのサガなのか、その人気は安定せず、
アンケートの順位が良い回もあれば(9話「散歩する幽霊」)
極端に悪い回(10話「激突!」)もありました。
この連載初期の低迷ぶりから、両先生はアンケート順位が落ちる原因について過敏になっていきました。
当時のぬ〜べ〜連載において、以下のような「アンケート順位が落ちるジンクス」が生まれたようです。
舞台が学校の外に出ると人気が落ちる
前後編にすると、必ずどちらかの人気が落ちる
主人公の家を描くと連載終了になる
今見ると、「そんなバカな」と思ってしまうジンクスたちですが、当時の両先生は必死でした。
実際、10話以降はしばらく学校内での話が続きますし、ぬ〜べ〜の家もラスト近くまで
描かれることはありませんでした。
こんなところまで気を配っていた両先生。
しかし、そんな努力をあざわらうかのように【地獄先生ぬ〜べ〜】は直後に
最大のピンチを迎えてしまうのです・・・!
玉藻不人気によってぬ〜べ〜終了の危機!?
11話より、アンケート低迷のてこ入れとして、ぬ〜べ〜のライバル・玉藻が登場します。
真倉先生は初のライバル登場ということで、かなり力を入れて原作を書き、
岡野先生もアシスタントの女性陣の意見をかなり取り入れてデザインを仕上げました。
そのかいもあって、玉藻はかなりの女性人気を得たのですが・・・
メイン読者の小学生男子にはまったく受けなかったようです!
そ、そんなー!
それまで中の下くらいを維持していたアンケート順位も、一気に下の下へ!
しかも5週連続で話をつくっているので、すぐに路線変更するわけにもいかず
ぬ〜べ〜は連載終了の危機を迎えてしまいました。
黄金期のジャンプは名実ともに「少年」誌であり、今ほど女性ファンの比重も
大きくなかったようです。
ともかくもメイン読者層である少年票を失ったぬ〜べ〜は沈みゆく泥舟も同然となりました。
もうあとがありません!
5話シリーズものの玉藻編が終わるとともに、ぬ〜べ〜は大幅な路線変更を求められます・・・。
奇跡の大逆転!『学校の怪談』シリーズ
離れてしまった読者を呼び戻すため、ぬ〜べ〜は『学校の怪談』シリーズと呼ばれる
ストーリーを展開します。
基本、一話完結スタイルの心霊モノなのは玉藻編以前までと同様ですが、
とにかくインパクト重視の恐怖シーンが強調して描かれました。
連載初期はあくまでも、教師モノとしての部分が大きかったため、
これは大きな路線変更となります。
当時の読者の方で「ぬ〜べ〜=怖い」という印象を持っている人は、
この路線変更による話を読んだ方でしょう。
これが功を奏し、離れていた読者も少しずつ戻って来ました。
アンケート順位も、少しずつ上がり始めたのです!
数話ほど怖い話路線を続け、「ぬ〜べ〜=怖い」というイメージがだいたい固まりつつあった頃、
ちょっとした冒険として、心暖まるやさしい話も描かれました。(20話「幸せを運ぶ少女」)
読者の反応も上々で、真倉先生は「こういう話でもいいんだ!」と
できる話のバリエーションが広がったことに喜びを感じたようです。
また、この頃から美樹を始めとした5年3組の生徒たちがキャラクターとして
生き生きと描かれるようになりました。
多くの漫画家にとっての憧れの「キャラが勝手に動き出す」という現象によるもので、
キャラたちの勢いも借りて、ぬ〜べ〜は打ち切りという沼に沈まずに済んだのでした!
まさかの担当交代!・・・しかし
連載が軌道に乗り、さぁこれから!というところで、ぬ〜べ〜の担当編集者が交代となりました。
(28話「三匹が斬る!」から担当交代)
もともと『BOY』の担当も兼務していたS木氏が、新連載(『るろうに剣心』)を起こすにあたり、
3本も担当は無理ということで、『ぬ〜べ〜』の担当を降りることになったのです。
「捨てられた・・・?」と思った両先生でしたが、新担当のS谷氏は「面白ければなんでもアリ」な
スタンスの人で、ぬ〜べ〜の話の自由度がグンと上がることになり、結果的には良い方向へと転がります。
また、ここが重要ですがS谷氏は「女の子大好き」な人で、のちにぬ〜べ〜人気の美少女キャラとなる
「ゆきめ」「速魚」「いずな」などのキャラクターは、S谷氏担当の時代に誕生しています。
「ぬ〜べ〜=美少女マンガ」という印象のある読者の方は、この新担当の趣味による話が
印象に残っているのかもしれませんね。
連載一周年を突破!初の巻頭カラーに感無量
連載59話目にして、ようやくぬ〜べ〜にもカラーページが与えられることになりました。
(1話と4話にもカラーページがありますが、これは新連載ご祝儀の一部のようなもの)
長い道のりでした・・・。
連載初期のいつ終了かもわからない暗雲を抜けてきた両先生にとって、
この巻頭カラーは感無量でしょう。
また、この少しあとにジャンプ恒例キャラクター人気投票も行われています。
投票結果は以下となります。
1位 ぬ〜べ〜 25154票
2位 広 16943票
3位 郷子 7958票
4位 美樹 4403票
5位 まこと 3926票
これだけ見るとものすごい投票数に見えますが、これは複数記名方式(1位3点…2位2点…という集計)
による投票によるためで、実際には応募総数1万票ちょっととなります。
まぁ。こんなものですよね。
さて。
一話完結方式の週刊連載も一年やっていると、当然ネタも切れてきます。
第一回のてこ入れから、「学校の怪談」路線をメインにやってきたぬ〜べ〜ですが、
そろそろ学校の怪談ネタで押し通すことも難しくなってきました。
当然、アンケートの順位もふるわなくなってきます。
このまま同じ様なことを続けても、早晩人気が凋落することは必至。
そう考えた両先生は、次のてこ入れを考え始めます・・・。
三大てこ入れオペレーションにて危機回避
ぬ〜べ〜二回目の大きなてこ入れは、大きく分けて三種類の試みから構成されています。
まずは、64話「0時0分0秒」に見られるような、「ラブコメ色の強化」です。
過去、ラブコメ要素のある話のアンケート順位が良かったこともあり、ここで作品内の
ラブコメ要素を意図的に強く調整したようです。
連載一周年で作品の知名度も上がってきたこともあり、話重視の単発の読み切りよりは
キャラクター同士の相互関係をたて軸とした形に変えていこうというねらいもありました。
また、今までぬ〜べ〜が一方的に惚れていた律子先生がゆきめを交えた「三角関係」に参戦するという
目の離せない要素を投入することにより、このラブコメ強化策を磐石のものとしています。
二要素目のてこ入れは、「学校の怪談」シリーズに代わるあらたなストーリー展開の模索です。
その名も、「日本の妖怪シリーズ」!!
これまでも座敷わらしやあかなめなどの日本の妖怪もたまに取り上げてましたが、
これからは意図的に日本の妖怪をメインに取り上げていこうとの作戦でした。
具体的には66話の「猫又」から意図的に「日本の妖怪」シリーズへと移行しています。
「ぬ〜べ〜=妖怪マンガ」という印象の強い方は、このシリーズをメインに読んだ方でしょう。
そして、てこ入れオペレーションの第三弾は、上記のS谷氏趣味による「美少女キャラの増強」
となります。
日本の妖怪シリーズへ移行した66話の次の話、67話「人魚の恩返し」には美少女人魚キャラ「速魚」が
登場しており、そのさらに後には後に人気美少女キャラとなるイタコギャルの「いずな」が登場します。
これで一通りのてこ入れは完了。
今後、「ラブコメ」「美少女」「日本の妖怪」の三本軸を主体に、ぬ〜べ〜の連載は進行されます。
このてこ入れは見事成功し、以後ぬ〜べ〜の人気はかなり安定したものとなったようです。
これらのてこ入れに対して、原作の真倉先生は当時は計算してやっていたわけではなくて、
「ただ必死だった」と言います。
あとで読み返して分析してみると、こういう三大軸でてこ入れが行われていたことに
あらためて気付いたとメイキングで語っていました。
いやぁ、たしかに冷静に計画して実施できるようなゆとりはないでしょうね。
週刊連載というキツイスケジュールで、アンケート票が落ちたら自分の作品が終わってしまうかもしれない
切迫した状況ではねぇ・・・。
先生方、本当にお疲れ様でした。
人気ピークへの道、そして・・・
前述のてこ入れオペレーションに成功したぬ〜べ〜は、以後じわじわと人気を上げていきます。
当時のジャンプマンガは「王道バトル」モノが本当に勢いがありました。
ぬ〜べ〜はバトルマンガではないため、たとえば84話「麒麟」の回では、
初めて戦う神クラスの霊に、ぬ〜べ〜は手も足も出ません。
結局、この回では克也が行った善行によって、麒麟の裁きをまぬがれるという
バトル要素的には尻すぼみの結末となりました。
真倉先生は当時の編集長に「バトルやれ」とよく言われていたようですが、
のらりくらりとかわしていたようです。
そのせいか、「なんとなく冷遇されていたような気がする」ともメイキングで語っています。
96話では、かつて作品人気を下の下へ突き落したトラウマキャラ「玉藻」が再登場します。
以前から女性ファンからの復活の要望を受けていた真倉先生ですが、人気凋落のトラウマは
大きかったようで、なかなかふんぎりがつかなかったそうです。
しかし、てこ入れによって作品の人気もかなり安定した今なら、仮に少し人気が落ちたところで
即連載終了にはならないだろうと思いなおし、玉藻を復活させることにしました。
再登場時、玉藻が教師ではなく医者として復活したのは、教師にしちゃうとレギュラーキャラとなってしまい
仮に人気がなかった場合、つぶしが効かなくなる…との逃げの配慮でしたが、
フタを開けてみれば、玉藻復活は大好評で、アンケートの票はさらに伸びることになったのです!!
よかったね、玉藻!
そして、いよいよアンケート人気がピークに達した102話を迎えます。
連載は3年目に突入していました。
102話「鬼の手の秘密(前編)」!
巻頭カラーです。場面を見ればわかる通り、かなりの力で描かれています。
ぬ〜べ〜に鬼の手がついた過去が明かされるエピソードで、ぬ〜べ〜全編通してアンケート票は
最高位の「2位」を記録しました。
まさに人気絶頂!最高潮!!
この勢いで、このままジャンプ大人気マンガの立場に踊り出るか!?
と、思いきや、鬼の手の秘密・前後編の次の話「騎馬武者幽霊」の巻で
一気にアンケート票が落ちてしまったそうです。
鬼の手の秘密で盛り上げるだけ盛り上げて、読者は新たな展開を期待していたようですが
次の回からいつもどおりの一話完結ストーリーに戻ってしまったのが原因かもしれません。
うーん、やっぱり安定しないのね、ぬ〜べ〜・・・。
そして、ついにこの頃から「アニメ化」の話が持ち上がってくるのでした・・・。
中編へ続く
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