今回は『ジョジョの奇妙な冒険』第4部に登場する
川尻しのぶと吉良吉影のストーリーに注目して
記事を書いてみようと思います。
川尻しのぶは杜王町に住むごく普通の主婦です。
短期大学生だった頃に知り合った川尻浩作という男と
たいして好きでもないのになんとなく付き合っていたら
子供ができてしまい、結婚することになりました。
浩作は悪い男ではありませんでしたが、
しのぶは「つまんない男」と評します。
あたしは『恋』を知らないで結婚した女…
玄関のドアが開き、浩作が帰って来ました。
今晩もあのつまんない男といっしょにすごさなきゃあ
ならないのか…
浩作の帰宅に気が付いたしのぶでしたが、
こんなつまらない男にあいそを言うのも
面倒くさいと無視を決め込むことにしました。
今晩は夕食も用意してはいません。
ところが、帰って来た浩作は
いつもとどこか様子が違うようでした。
なんと、夕食がないとわかった浩作は
手際良く料理を始めます。
すっトロイはずの浩作に料理が出来るなんて…
これにはしのぶも驚きました。
つまんない男だったはずの夫の突然の豹変・・・。
しのぶの奇妙な恋愛物語はここから始まります。
ロマンチックな人
それから数日間、夫の様子はどこか変でした。
急に料理をはじめる。
頻繁に爪を切る。
電気シェーバーではなくカミソリでヒゲをそる。
小さな違和感は多くありましたが、
しのぶにとって、夫の印象が180度変わるほど
大きな違和感は程なくやってきました。
それは大家が家賃の督促にやってきたときのことでした。
滞納分の家賃を払うように言われた夫は、
家の金庫のまえに無言で立ちつくしたと思うと、
金庫を開けずに大家のもとへ向かい、
どうやってかはわからないが、大家のカバンから
大金を抜き取り、それを家賃として支払ったのでした!
普通なら大きく非難されるべきこの行為。
しかし、しのぶの印象は夫への嫌悪ではなく
まったく逆のものでした。
わたしはこの人のことを……
十数年いっしょに生活して初めてこの人を
『なんてロマンチックなの』
――と思った……
川尻浩作の正体
川尻しのぶが夫に変化を感じたのも当然でした。
本物の川尻浩作はもうこの世にはおらず、
今の浩作はべつの人間がなり変わった姿だったのです。
『吉良吉影(きらよしかげ)』
現在の川尻浩作の正体は杜王町に潜む殺人鬼でした。
正体を暴き追跡しようとする者たちから逃れて、
川尻浩作になり変わった吉良は、ほとぼりが冷める
までは川尻浩作としておとなしく暮らすしかありません。
吉良は昔から若い女性を殺しては「手」を切り取って
持ち歩くという行為を繰り返していました。
その行為に深い意味はありませんが、
そうせざるを得ないほど強い欲求が身体の底から
沸き上がってくるのです。
吉良の欲求に呼応するように、自身の指の爪が
よく伸びる時期がたびたび訪れ、毎回その時期に
なると殺人欲求が抑えられなくなります。
しかし、今は川尻浩作の生活になじむのが何より先決。
今、下手な行動に出ては追跡者に正体が露見する
可能性があります。
吉良は気持ちを抑えつけ、
川尻浩作の筆跡をまね、
サイズのあわない靴を取り換え、
じょじょに少しずつ川尻浩作に溶け込んでいきました。
そして、浩作の妻・しのぶは夫の変化を敏感に感じ取り、
どんどん浩作の姿をした吉良に惹かれていきます。
吉良吉影と川尻しのぶ。
ふたりの奇妙な関係はこの先さらに進展して行きます。
吉良吉影の新しい事情
ある日、吉良はしのぶから奇妙な相談を受けました。
家の地下室に見慣れない猫が入り込んでおり、
その猫がしのぶが見ている前で天井に張り付いたのだといいます。
さらにその猫は喉のところにぽっかり「穴」が開いていた
とのことでした。
「穴」…。
吉良はその「穴」に心当たりがありました。
あらゆるスタンド使いの持つスタンド能力は、
特殊な「矢」で身体を射抜かれることにより発現します。
もしかすると、その猫の「穴」は「矢」に
射抜かれたことによる「穴」なのでは…。
ところが、そのスタンド使いと思しき猫は
すでに死んでいました。
喉の「穴」に驚いてしのぶがほうきを振りまわした
ことによって、割れたビンが偶然突き刺さってしまい、
ザックリと喉を切ってしまったようでした。
これでは猫がスタンド使いかどうかは判別できません。
仕方なく、吉良は死んだ猫を庭に埋めてやることに
しました。
しかし、翌日!
猫は草状の生物となって地面から生えていました!
それも、「空気を自由に操作する」という能力を
持っているようで、吉良のスタンド『キラークイーン』の
爆弾攻撃をいとも簡単に防ぎました。
さらには、空気を固めて飛ばすことも可能で、
この空気弾による攻撃を受けたしのぶは
失神してしまいます。
この際、吉良は奇妙な感情を抱きました。
何だ……?
この吉良吉影…
ひょっとして今この女の事を心配したのか?
彼女の目にサボテンのトゲが刺さらなかった事に…
今、心からホッとしたのか…?
何だ…この気持ちは…
このわたしが他人の女の事を心配するなどと…!
いや違う!
この女がもし死んだらあの空条承太郎に
この家の事が知られる心配があるだけ…
この女が無事でホッとしたのはその事のせいだ…
ただそれだけ…
吉良は自分に芽生えた感情の正体がつかめないまま、
猫草への対処に戻ります。
結局、この場は猫草にゴルフボールをじゃれつかせる
ことで事なきを得ました。
失神から醒めたしのぶは、猫草のことは
悪い夢だったと解釈しました。
そして、同時に夫が会社を遅刻してまで
自分を介抱してくれていたという事実に感動します。
うれしかったわ
あの人と心が通じていると思った
今までで一番幸せな朝だったわ…
吉良吉影と川尻しのぶ。
二人が心を通じ合わせることのできた
つかの間の時でした。
川尻早人
食事をする吉良吉影の背に執拗な視線を向ける者がいました。
川尻早人…。
川尻しのぶと川尻浩作の息子です。
物静かな子どもで、両親ともろくに口を聞こうとしないため
何を考えているのかいまいち掴みかねるところがありました。
川尻しのぶも、早人が何を考えているのか
まったくわからないといいます。
吉良は早人のことがすこし気になりはしましたが、
すぐに興味をなくします。
しかし、早人は吉良にとっては最も恐るべき相手でした。
早人は自分の父親の異変にいち早く気が付いており、
隠しカメラや盗聴器を使って吉良の様子を探っていたのでした。
今朝も、父親が嫌いなはずの椎茸を朝食でムシャムシャ食べていた
ことに疑問を持ちつつ視線を向けていました。
そして、父親への不信感をつのらせた早人は
ついに父親の正体を探るべく直接的な行動に移ります。
ある日、父親を尾行していた早人は
決定的な現場を目撃してしまいます。
自分の父親が、知らない男の人と女の人を殺して消した!
いや…父親ではない。
父親の顔をしている何者か。
本物の父親はすでに殺されて、ああして消されたのだ!
吉良は犯行を早人に目撃されていたことに気が付き、
早人に脅しをかけます。
何て事だ…せっかく平穏にこの家になじむと思ってたのに
この小僧を『殺す』のは目立つ事で非常にまずい事だ…
しかし、あれを見られた以上やらざるを得ない!
『始末』しなくてはいけない!
しかし、早人は吉良が思っていた以上に手強い相手でした。
なんと早人は、今のこの状況を…
吉良が早人を殺そうとするこの状況をビデオに録画していました。
しかも、吉良が川尻浩作の筆跡を練習しているところも、
靴のサイズが違うところも、屋根裏に隠したはずの「猫草」も
すべて録画しているといいます。
「ぼくに手を出すなーッ いいなッ!!」
吉良の完全な敗北の瞬間でした。
たかだか小学生の少年にここまで追い込まれるとは…
吉良は自分が夢見ていた平穏な生活が遠のいていく
ことをうっすらと感じました…。
平穏を求めて
早人に脅しをかけられ、激しく動揺した吉良吉影は
最も愚かな行動をとってしまいました。
思わず早人を『始末』してしまったのです。
普段の状況での『始末』ならば、うまく医者や警察を
ごまかすことができたかもしれませんが、
今は時期がよくありません。
吉良を追う者たちが川尻浩作へ疑念を向けた直後でした。
ここで早人の死亡がわかれば、追跡者は必ず
川尻浩作が吉良吉影であると確信することでしょう。
吉良は深く『絶望』しました。
もう自分の求める平穏な生活はやってこないかもしれません。
杜王町を逃れて、追ってくる者を気にして
背後におびえたり穏やかでも安心もできない人生を
歩むことになるかもしれません。
吉良はそんな人生はまっぴらでした。
この町は決して出ないぞッ!
吉良が不屈の決意を口にした瞬間、奇跡が起きます。
スタンドの「矢」がふたたび吉良をつらぬき、
キラークイーンにあらたなる能力が備わったのでした・・・。
翌日、吉良は久しぶりにおだやかな気分で朝を迎えます。
家には『始末』したはずの早人の姿がありました。
キラークイーンの新たな能力「バイツァ・ダスト」。
吉良がとことん絶望したときにのみ偶発的に
発動することができる能力で、
吉良にとって不都合な事実を消すことができるという
とんでもないものでした。
昨日、早人を始末してしまった事実はバイツァダスト発動
によって消され、吉良も早人も普段通りの朝を迎えること
になります。
早人にしかけられたバイツァ・ダストは、
これから吉良の正体を探ろうと早人に近付いてくる者たちに
対して発動し、正体を探られたという事実および、
探りを入れた者たちを自動的に消してゆくことになるでしょう。
吉良はこれから先ずっと敵と出会うことはありません。
文字通り「無敵」となったわけです。
吉良がもっとも望んでいた平穏な生活がここにおとずれました。
偽りの家族とはいえ、吉良の平穏を守るためには
必要不可欠な隠れ蓑です。
そういった意味で、吉良はこの川尻の家族を心より
いとおしく思いました。
家族なんだ…
みんな仲よくしなくっちゃあなあ〜〜
仲よくねェ〜〜
吉良の平穏な生活はこの先ずっと続くものと思われました。
吉良の最期
しかし、吉良の望みはかないませんでした。
無敵と思われたバイツァ・ダストの穴を突いた
早人の勇気ある行動によって、追跡者たちは
再び吉良の前に姿をあらわすことになります。
激しい「喜び」はいらない…
そのかわり深い「絶望」もない…
「植物の心」のような人生を…
そんな「平穏な生活」こそ
わたしの目標だったのに……
吉良はこの闘いに敗北します。
末路はあっけないものでした。
バックしてきた救急車による轢死。
地面とタイヤにはさまれて顔の皮膚が
はぎとられてしまい、死体の身元は
「川尻浩作」とは判断されず、
歯形の記録から「吉良吉影」であると
判別されました。
吉良の最期は「事故死」となりました。
その夜。
川尻の家には、帰って来ない夫を心配する
しのぶの姿がありました。
早人は父がもう決して帰ってくることのないことを
知っていましたが、母に告げることはできません。
しのぶはこれからも夫の帰りをずっと待つでしょう…。
しのぶにとって、本当に悲しい事実とは何なのでしょうか。
夫がすでに吉良に殺されていたことでしょうか。
それとも、真に恋をした相手である吉良吉影がいなくなって
しまったことでしょうか。
または、そうした事実を一切知らないままに、
帰るはずのない夫をこの先ずっと待ち続けなければならない
ことでしょうか。
早人はどうでしょう。
早人は本当の父親である川尻浩作と仲良しだったわけではありません。
しかし、父親を殺した吉良吉影を誰かに裁いてほしかったといいます。
結果、吉良は死亡してしまいましたが、早人はこの先、母親のことと
吉良のことで深く悩むときが来るかもしれません。
母は吉良が夫になりかわっていたことを知らず、
早人もそれを告げることはできません。
母は父とは全然仲が良くなかったのに、吉良がなりかわって
からはすごく仲が良くなっていました。
吉良はもしかしたら、(他の者は殺したとしても)
早人としのぶには手を出さずに、川尻の家族はずっと
大切にしたかもしれません。
自分のしたことはこれでよかったんだろうかと。
早人は悩むかもしれません。
自分のしたことは母親を悲しませるだけだったのかと。
いずれにせよ、川尻の家族は深く傷つきました。
川尻しのぶと吉良吉影の物語は、良い結末を迎えることは
できませんでした。
しかし、もしああだったら、こうだったら…
このあとしのぶは、早人は、どう生きていくのだろうと
ついついあれこれと考えてしまう後を引く物語であると思います。
実は吉良の死後、彼の物語には続きがありますが、
しのぶと早人の物語も続きがあれば読みたいと、
最近は切に思います。
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