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Channel: 紫の物語的解釈
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最終回を語れ!〜【寄生獣】編

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ある作品の最終回を取り上げて徹底的に語るコーナーです。
今回は『寄生獣』の最終回について語ってみようと思います。
コーナーの性質上ネタバレ全開となりますので未読の方はご注意ください。

一応、最終回について語る前に『寄生獣』がどんな物語だったのか
おさらいしておきましょう


  『寄生獣』概要

ある日、空から多数の正体不明の生物が飛来した。
その生物は人間の脳に侵入・寄生して全身を支配し、他の人間を
捕食するという性質を持っていた。



寄生後も見た目は人間そのものであった彼ら「パラサイト」は、
高い学習能力から急速に知識や言葉を獲得し、人間社会に紛れ込んでいった。

主人公・泉 新一(いずみしんいち)もパラサイトに寄生された一人だが、
脳への寄生はまぬがれて、右腕に寄生されてしまう。
これにより、新一と「ミギー」と名付けられたパラサイトの
奇妙な共生生活が始まった。


以上が、『寄生獣』の概要です。
物語は、偶然にも寄生生物と人間の中間に位置することとなった
新一の目を通して描かれます。

寄生生物でありながら、高い知能を持つミギーはあっという間に
言葉や人間社会のことを学習し、やたらと知的なしゃべり方をします。
でも、その知的なしゃべりをしてるのが右手・・・というシュールな画が
読者を引きつけます。

寄生生物自体の気味の悪さや、人間を捕食するシーンのグロさから
モンスターパニックやスプラッターホラーの要素が強いですが、
新一&ミギーが他の寄生生物と出会って交戦となるバトルの要素もあり、
寄生生物が人間を捕食するのは何故か?それは他生物や人間が食事を
するのとではどう違うのか?というような、生命について考えさせられる
要素もあり、
非常に幅の広い楽しみ方ができる作品です。

新一とミギーの関係性がどんどん深まっていくのも素晴らしいところで、
初期は知的な言葉を話しつつも、人間の「情」のような部分は
ほとんどなかったミギーが終盤に新一に対して「友情」を感じる場面は
涙なくしては読めません。

また、ほとんどが敵となる他の寄生生物ですが、回を追うごとに
新たな要素を持ったキャラが出てきて読者を飽きさせることがありません。
最初は、誤って犬に寄生してしまったパラサイトとの交戦に始まり、
スタンダードな人間寄生型のパラサイトとの交戦を経て、
やがて、パラサイト側も人間社会への溶け込みがたくみになるにつれ
個性的なパラサイトがちらほらと登場します。
中でも、
パラサイトでありながら自分たちは何のために生まれてきたのかを
真剣に考えつづけ、人間の子どもまで産んだ異色の存在「田村玲子」と
一体の人間に5匹のパラサイトが宿り、その司令塔として最強ともいえる
戦闘能力を発揮した「後藤」は非常に印象深い存在でした。


物語は最強のパラサイト・後藤との戦いをクライマックスとして、
収束を迎えます。
後藤との戦い以降、生物として新たな可能性に目覚めたミギーは
外面活動を停止して「別の方角に歩いてゆく」と新一に言い残して消えました。
新一の右手は、ただの右手に戻りました・・・。

それから、一年後。
『寄生獣』は最終話を迎えます。


  最終話「きみ」



ミギーが新一の右手からいなくなって一年が過ぎました。
高校を卒業し、浪人生となっていた新一は意外な人物と再会します。

「パラサイトに寄生された人間を見破ることができる」という能力を持つ
連続殺人犯の浦上。
一年前の市役所での「殲滅戦」の折、新一と一度だけ顔を会わせた際、
新一に対して、「寄生生物ではないが何か他の人間とは違っている」という
ことを見抜いた人物です。



浦上は新一のガールフレンド・村野里美を人質に取り、
新一に問いを投げかけます。

「寄生生物どもが人間を殺すなァわかりやすい。ただの食事だ…
 でも、このおれァ何だと思う?」

浦上は、人間はもともとお互いを殺したがっている生き物のはずで、
連続殺人犯の自分こそが人間として正直に生きているといいます。



そのことについて、人間と寄生生物の中間の立場の新一の目から
意見を聞きたいという浦上。
ミギーのことは里美には秘密にしていた新一だったが、
新一が人間と寄生生物の中間の存在だと知ったら里美はどう思うのか…



新一が何かを答えようとした瞬間、里美は新一の言葉を
さえぎるように声をあげました。

「警察…呼んできてよ。こんなヤツにつきあってる必要はない
 こんなヤツのどこが正常な人間よ!あんたこそ寄生生物以上のバケモンじゃない!!」

気丈に浦上を非難する里美。
興味をひかれた浦上のナイフが里美の喉元に当たろうとする時、
新一は走りました。

 助ける! 間に合うさ! そうともおれは脚が速い!
 ただの人間じゃないんだ!
 ヤツの動きなんざ止まって見えるぞ!
 左でナイフをはねあげそのままアゴを砕く!
 同時に右で彼女を! 1秒もかからないさ!



しかし、新一は浦上にビルから突き落とされた里美の手を
掴むことができませんでした。
里美はスローモーションのようにビルから転落して行きます。



悲しみに泣く新一。
モノローグがカットインします。



 道で出会って 知りあいになった生き物が ふと見ると死んでいた
 そんな時 なんで悲しくなるんだろう

 そりゃ 人間がそれだけヒマな動物だからさ
 だがな それこそが人間の最大の取り柄なんだ
 心に余裕(ヒマ)がある生物 なんとすばらしい!!
 だからなあ・・・
 いつまでもメソメソしてるんじゃない 疲れるから自分で持ちな



次の瞬間、なんと新一の右手は確かに里美を掴んでいたのです。
ミギーが・・・戻ってきた!?



空を見上げていて、いつかの死んだ子イヌのことを思い出しました。

かつて、新一は道路で死にかけていた子イヌを助けて、
その最期を里美と共に看取ったことがありました。
子イヌが死んだあと新一はその死体をゴミ箱に捨て、
里美に激しく叱責されました。
その後、ミギーの言葉を受けて新一は子イヌを樹に埋めなおしたのですが、
それを今この場で思い出していました。



里美は「知ってるよ」と答えます。

「それは新一くん・・・きみが新一くんだから・・・」



里美を抱きとめる新一の右手。
ミギーが本当に戻ってきたのかはわかりません。



何かに寄りそい・・・やがて生命が終わるまで・・・


  語り尽くせ、最終回!

さーて、どうだったでしょう『寄生獣』最終回!

最強の敵・後藤と戦ったあとの最後の相手が
ただの人間の殺人鬼・浦上だとは、『寄生獣』をモンスターバトルもの
として読んでいた読者は拍子抜けしたことでしょう。
でも、後藤と戦ったあとだからこそ、最終回での浦上と新一とのやりとりは
興味深いものがあります。

後藤にトドメを刺す際、新一は

「正直言って必死に生きぬこうとしている生き物を殺したくはない…
 そうだ…殺したくないんだよ!殺したくないって思う心が
 人間に残された最後の宝じゃないのか」

というようなことを思っています。
殺したくない気持ちを認めつつ、結局トドメは刺すのですが
新一としても十分に悩んだ末の結論でした。

一個の生物の生命を奪うのに思い悩んだ新一に対して、
浦上の持論は完全に極北です。

「人間はもともととも食いするようにできてるんだよ
 何千年もそうしてきたんだ!」

今まで新一とミギーが戦ってきた寄生生物たちは、
ただの人間の浦上よりよっぽど戦闘能力に秀でていましたが、
「自身の生命維持のために敵を殺す」の一線を超えてはいませんでした。
ところが、浦上の殺人動機は「ただ殺したいから殺す」という
だけであり、殺人動機の理不尽さで言ったら究極です。
そういう意味でいうと、ラスボスにふさわしい存在ともいえます。


途中、いきなり入るモノローグでミギーが人間について語るシーンがあります。
「心にヒマがあるのが人間の最大の取り柄」と人間を称賛します。
他生物からみた人間の評価としては高評価です。
浦上の言うような「お互いを殺し合うのが人間」とか言われなくて
本当良かったと思います。
「別の方角へ歩く」と言い残して消えたミギーですが、
生物としてどのような動きをみせるのか気になっていたところ、
こういう人間を肯定するような発言があるのは安心できるところですね。
そのうえ、里美を助けてくれるというおまけまでつけて。
ちなみに、ミギーが人間のことを良く言うのはこれが初めてです。

結局、ミギーは「戻って」きたのかどうか?



最後の新一の右手のアップのところで、作者の岩明先生は

 目玉をキョロっとか出そうかとちょっと迷いましたが、
 でもあれでいいんです。

と発言しています。
個人的な考えですが、僕は「戻ってきた」と思いたいです。
先のモノローグの、「心にヒマがあるのが人間の最大の取り柄」という
ミギーの人間評ですが、消えてるあいだに何らかの形でミギー自身が
そういう結論にたどり着いて、人間の友達であるところの新一のもとへ
帰ってきて再び共生しようとしたんじゃないかと、
そう思いたいんですよね。


最後に、サブタイの「きみ」ですが、
これは里美がラストに言った「きみが新一くんだから」という言葉に
象徴されるサブタイだと思われます。
そもそも、この里美ちゃんは3話目くらいから

「きみ・・・泉新一くんだよね?」

と発言しており、新一の"変化"を微妙に感じとっています。
このセリフはその後、新一に"変化"があったときにしばしば
登場しており、里美が新一が本当に新一であるかどうかを
常に疑問に思っていたことがわかります。
それが一番顕著だったのが、ラストに話に出てきた
「子イヌのエピソード」だったわけですが、
死んだ子イヌをゴミ箱に捨てるという、それ以前の新一からは
想像もつかないような感情の切り替え方に、里美は激しく戸惑い、
その場を逃げ出しました。

そのあと新一は子イヌを樹の根元に埋めなおしたんですが、
それを里美は知っていたという、ずいぶん時間を開けたネタばらしでした。

結局、里美も新一が知らないところでずっと思い悩んでたんですね。
ミギーに寄生されて、パラサイトたちと交戦するようになってから
新一はものの考え方や外見までもがずいぶんと変わりました。
里美は急速に変化してゆく新一が、本当に新一なのか不安だったと思います。
でも、この「子イヌのエピソード」やその他の出来ごとから、
やっぱり新一は新一なのだと結論したことと思います。
浦上とのやりとりで、新一がパラサイトに寄生されているかもと
わかったところで、新一が新一であることに変わりはありません。

そのようなことをすべて含めての、

「きみが新一くんだから」

というセリフ、引いては「きみ」というサブタイトルなのだと思います。




最後のこのコマも良いですね。
人間も言ってみれば地球に寄生して生きてるわけで、
その「寄生」っていうのを「何かに寄りそい生きる」と
表現したのはこの物語を締めくくる言葉としてはぴったりだと思いました。


と、いうわけで『寄生獣』の物語は素晴らしい最終回でもって
幕を閉じました。
岩明先生も、

 『寄生獣』は私が考えうる最良の形で終了できました。
 最良とは、例えば出版社のスケジュールだとか、
 どっかから抗議や圧力があったとか、作者の金銭欲だとか、
 そうしたものは一切関係なく、純粋に物語の自然な流れの命ずるままに
 何者にもじゃまされることなく最良の形を模索して、
 無事終着点にたどり着けたという事なのです。

と発言しており、この最終回が作者も望んだ形なのだということがわかります。
当時かなり人気があったはずのこの作品を終わらせるという
英断を下したアフタヌーン編集部もなかなか粋ですね。

いまなお「名作」との呼び声も高い『寄生獣』。
その最終回は、作者も太鼓判を押す「最良」の形での最終回だったのでした。


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