打ち切り漫画にスポットを当てて、その魅力に迫る
「打ち切りさんいらっしゃい!」のコーナーです。
今回は2009年、2010年に週刊少年ジャンプで連載されていた
『賢い犬(かしこいけん)リリエンタール』を取り上げます。
まずことわっておきますが、僕はこの作品が連載されていた時期に
ジャンプの購読をしていませんでした。
僕が『リリエンタール』という作品の存在を知ったのは
既に連載が打ち切られてからある程度の時が経ったあとでした。
従って、連載当時の空気感やアンケート低迷の原因などについて
言及することはできません。
あくまでも、今回の記事は『リリエンタール』という作品の魅力に
迫るという体で書きたいと思います。
では、どうぞ↓
賢い犬リリエンタールとその概要
『賢い犬リリエンタール』というタイトルの通り、本作品の主人公は
「リリエンタール」という名前の「犬」ということになります。
もちろん、ただの犬ではありません。
まず、犬なのに人間の言葉をしゃべります。
文字を書いたり読んだりすることもできます。
さらに、二本足で立つ! 歩く!
しかも、かなり礼儀正しい!
第一話は「日野てつこ」と「日野・兄」が海外から帰ってくる両親を迎えに
空港へとやってくるところから始まります。
てつこと兄は、両親から「弟を連れてくる」と聞いていましたが、
空港に現れたのは「リリエンタール」という一匹のしゃべる犬でした。
両親は急に来られなくなったということですが…
そこへ、リリエンタールを狙う黒服の男たちも現れ、
てつこたちの乗ったバスがジャックされてしまいます。
絶体絶命の状況の中、リリエンタールが薄い光に包まれたかと思うと、
なんとバスは深海の中へ!
リリエンタールはしゃべったり歩いたりするだけではなく、
不思議な力を持った「賢い犬」だったのでした・・・!
リリエンタールの力は、まわりの人の「心」に反応して、
ふしぎなものを現実世界に具現化するものでした。
バスジャックのときは、小さい女の子の不安な気持ちに反応し、
そのとき女の子が読んでいた絵本の風景を現実化しました。
先生が家庭訪問に来た際、てつこの「先生に会いたくない」
「両親が帰って来なくてさびしい」という気持ちに反応して
日野家の下り階段を消したり、話に聞いた両親の昔の部屋を
出現させたりしました。
日野・兄の「リリエンタールがさびしがるから、はやく仕事を
終わらせて遊んであげなきゃ」という気持ちに反応して
テレビの中から登場人物を具現化することもありました。
『賢い犬リリエンタール』のエピソードは、このリリエンタールの
ふしぎな力を中心に構成されます。
いろんなひとの心に反応してリリエンタールが巻き起こす
ちょっとふしぎ空間は見ているだけで楽しく、魅力的です。
そのふしぎ空間を発生させているのは誰か?というミステリー要素もあり、
ふしぎ空間で巻き起こるどたばたコメディの要素もあり、
ふしぎ空間を心の持ち主の問題ととらえ、それを解決する
ハートフルな要素もあり、
物語展開のバリエーションはかなり広いです。
また、リリエンタールのふしぎな力を発端とするエピソードと並行して、
リリエンタールを狙う組織からの追跡を撃退するエピソードも展開されました。
『賢い犬リリエンタール』のストーリーは、基本的にこの2本の
縦軸をもって広がっていきます。
賢い犬リリエンタールと魅力的なキャラクターたち
『賢い犬リリエンタール』には、かなり魅力的なキャラが
数多く登場します。
まずは、中心人物となる「日野てつこ」(11)と「日野・兄」(15)です。
何故か兄には名前がありません。
てつこは気難し屋で常識人。
「犬が弟」とか「ふしぎパワー」なんて、もってのほか!
「普通の家族」にこだわるてつこはリリエンタールにきびしく当たります。
というわけで、物語中は主にツッコミ役にまわることが多くなります。
拳法の達人でリリエンタールへのどつきツッコミが冴える冴える。
得意の拳法はツッコミのみならず、バトル展開でも活躍します。
リリエンタールにとってのツンデレキャラですかね。デレはなかなか見せませんが。
本編中はラフな格好ばかりしてますが、単行本のおまけページで
「女の子らしい格好をさせてあげてください」との読者要望により
描かれたワンピース姿はメラかわいい!
てつこ8歳の頃のエピソード「かぶと虫の幼虫事件」は必見。
『賢い犬リリエンタール』はてつこの成長物語でもあります。
日野・兄はのんびり屋でやさしい性格です。
15にしてさまざまな特許を取得している天才発明家であり、
日野家の家計は兄の特許収入で支えられています。
さらに日野家の家事全般を切り盛りもするスーパー主夫!
バトル展開では、相手のメカを一瞬で解体する凄味もみせます。
物語中では、てつこやリリエンタールを見守る保護者のような
ポジションにいる印象があります。
考えてみたら、兄中心のエピソードもありませんでしたね。
うーん、謎な人物。
日野家のおとなりさん春永家の双子です。
「春永 雪」(12)と「春永 桜」(12)と、
双子キャラのわりにはあまり似ていない二人です。まぁ男女ですしね。
この二人、性格(というかキャラとしての性質)も正反対です。
お姉さんの雪の方は、おもしろいこと大好きの天真爛漫キャラ。
見ていて気持ちの良いくらい、楽しそうに動き回ります。
ちょっと腹黒い部分があり、悪い事をたくらむと髪の毛が
悪魔の角みたいにぴょこんと立つ演出が新鮮でした。
日野・兄に惚れている描写がありましたが、それが広がる
エピソードは特にありませんでした。
個人的に一番好きなキャラです。
もっと無茶苦茶やってるとこが見たかったかも。
弟の桜の方は姉とは対極的にクールキャラ。
ものすごく賢く、クレバーな考え方をします。
リリエンタールが巻き起こす不思議な現象についても、
冷静に論理的に解釈し、その対策をすぐに考えます。
これで12歳・・・。
『リリエンタール』キャラは年齢に不相応に大人っぽい
キャラが多いですが、桜はその代表格みたいな感じです。
つづいて、リリエンタールが具現化したキャラクターたちを紹介。
人間キャラにくらべて一癖も二癖もある連中ばかりです。
「マリー」は100年前に遭難した船で亡くなった子どもの幽霊です。
ずっとひとりぼっちだったマリーですが、リリエンタールの力によって
日野家へ住むことができるようになりました。
触れたものをなんでも幽霊にできる力をもっています。
意志表示がとぼしいので、あまり物語に積極的に噛んで来ることは
ありませんでしたが、妙な存在感があって空気化することなく
最後の肝心な場面でも活躍できたのは良かったかも。
いちばん幸せになってほしいキャラです。
テレビ番組(アニメ?ドラマ?)の登場人物だったのが、
リリエンタールの力によって現実世界に具現化された
「吉良・ライトニング・光彦」はものすごい強烈キャラです。
まず、「西洋甲冑にちょんまげ」ってところが既にインパクト充分。
しかも名前が「吉良」「ライトニング」「光彦」って、どんな世界観!?
キャラとしては実直な武人という感じ。
自分のことを「騎士」と名乗ってるから、性質のベースは西洋なのかしら。
「音羽・スーパーソニック・山彦」という従兄弟がいますが、
こちらもインパクト充分です。
その「ライトニング光彦」の宿敵となる
魔女の「ワリーゼ・カナリーナ」です。
といっても、宿敵と思ってるのはライトニング光彦だけで、
実際、カナリーナはライトニング光彦に惚れていて、
光彦を自分のものにしようとしているだけだという・・・。
でも不器用なうえにライトニング光彦も鈍感なので、
結局対立してしまうという面白要素満載のキャラです。
魔女なんてやってるのにメンタル面がおもくそ弱く、
ライトニング光彦との戦いが終わったあとに
ベッドに顔うずめて「また嫌われたかな・・・」とかつぶやいちゃう
カナリーナ様かわいい。
リリエンタールのらくがきから生まれた「スーパーうちゅうねこ」です。
リリエンタールの知らないうちに、日野家を見張っていた黒服・アキラの不安な心に
反応して具現化してしまい、あれよあれよといううちにアキラのパートナーに。
後付けでどんどんらくがきに設定を足され、「空を飛べる」「自由に大きくなれる」
「透明になれる」「目からおやすみビームを出す」などなど様々な特技を身につけ、
最終的に「とてもかしこいりっぱなねこ」に落ち着きました。
そのせいで、ものすごく知的なしゃべりをします。
姿はほとんどらくがきなのに、ギャップすさまじいな!
組織の管理官・シュバインと知的トークを繰り広げるさまはなんだかシュールです。
これまた後付けの設定で「きゅうりが好物」ということで、
たまにきゅうりをポリポリ頬張っているのがかわいいなー。
そして、リリエンタールを狙う黒服の組織のキャラクターたちの紹介です。
組織はリリエンタールのことを「RD−1」と呼称し、ことあるごとに
奪おうとしてきます。
悪役なんだけれどもどこか憎めない黒服の組織の面々をみよ!
まずは、「サングラス組」と呼ばれる三人組です。
第一話でリリエンタールを狙った黒服です。
最年少の「アキラ」を中心に、「ジョー」と「ケンジ」が脇を固めます。
一話で登場した時は凄味のあったアキラでしたが、「銃がないとダメな感じになる」
という設定のもと、どんどんヘタレなキャラになっていきました。
でも、一話だけのかませ犬では終わらずに、「スーパーうちゅうねこ」と
ともに縦横無尽の活躍をみせるときもありました!
「紳士組」と呼ばれる、「紳士・ウィルバー」と
その部下「ローライズ・ロンリー・ロン毛」です。
この紳士組は、ある意味本作品を象徴するような強烈なキャラクターです。
初登場時、RD−1を奪取するために、まず日野・兄を誘拐します。
そこは悪の組織の構成員らしいですが、その誘拐のしかたが非常に紳士的で、
日野・兄が誘拐された部屋にはお茶もお菓子も用意がととのったくつろぎ空間でした。
「紳士は決して命を奪いません!」
とウィルバーはあくまでも紳士的。
さらに、人質とRD−1を交換という紳士的でない手段もとりません。
日野・兄を助けたければ、ウィルバーと紳士的に勝負することになります。
リリエンタールとウィルバーは紳士的にチェスで対決することになりますが、
両者チェスはまったくの初心者で勝負はグダグダの泥試合に・・・。
「こんなの卑怯よ。バカ犬が勝てるわけないわ。
最初からそっちに有利な勝負じゃない!」
と、てつこがウィルバーを反紳士的だと批判しますが、
真の紳士は決してブレません。
「お言葉ですがお嬢さん。ウサギを狩るのにも全力を尽くすのが紳士。
勝負の前に優位に立っておくのが大人の戦い方…
大人の強さというものなのですよ」
と、よくわからないけど説得力のある紳士論を展開します。
もう、なんつーか「紳士」としか言いようのないキャラなのですが、
この不思議な味がたまらんです。
部下のローライズ・ロンリー・ロン毛も、ウィルバーの扱いを紳士的に
心得てるところがとても良い感じです。名コンビ!
最後は組織の幹部の方々を。
「シュバイン」(26)と「神堂令一郎」(14)です。
ふたりとも年齢的に若いのになんつー貫禄。
とくにシュバインさんは上司にしたいキャラ・文句なしのナンバーワンでしょう。
公平で冷静で決断力があって、しかも部下思いと来たもんだ。
しかも、ただの組織の幹部に収まることなく、首領(ボス)を出し抜く度胸をも
持っていて、どことなくジョジョ第五部のブチャラティのような感じです。
組織視点でみた場合、シュバインさんが主人公といっても言い過ぎではあるますまい。
神堂令一郎は典型的なオレ様キャラです。
11歳のときに会社を立ち上げ、わずか3年で「神堂グループ」という
技術開発をメインに行う新鋭企業グループに成長させたという、まさに神童!
それまで誰かと比べられることのなかった神堂令一郎が、初めて他人を意識したのが
日野・兄で、神堂は日野・兄にライバル心を燃やします。ここがこのキャラのキモです。
令一郎のすごいところは負けを認めるのが潔いところです。
わずかのやりとりで負けを認めた令一郎は、すぐにリリエンタールを組織の追撃から
守るという行動に出ます。 切り替え早い!
ここまで潔いオレ様キャラは珍しいかもです。
後ろに控えるオリガとのコンビも素敵ですな。
賢い犬リリエンタールと特徴的なキャラの表情
『賢い犬リリエンタール』の作品的魅力として、キャラの表情が
非常に豊かなことが挙げられます。
「あんこくまじん編」で登場する「うさみ」の表情など取ってみても、
笑顔や喜びといった正の表情はもちろん、動揺、狼狽、泣き顔、悪い顔という
負の表情も生き生きと表現されます。
うさみの百面相だけ取り上げて見てもひとつのコーナーとして
成立すんじゃないかってくらい。
うさみ、好きです。
人間離れしたキャラが多いこの作品のなかで、一番人間味のあるキャラだと思います。
雪の「悪いことをたくらむと、髪が角みたいににょきにょきとなる演出」
は新鮮でした。
あくまで、一点の曇りのない満面の笑みでにょきにょきすることがポイント!
悪い顔一切せずに悪い感じを出してるのがすごいなー。
カナリーナの使い魔のきつねは、ほとんど表情を変えません。
それを逆手にとって、妙に味のあるキャラクターに仕上げられてますね、きつね。
葦原先生の周りからは「やる気のないきつね」とか「目が死んでるきつね」とか
呼ばれてたようです。一応、「コンフォニー」という公式な名前が
付けられてますが、「目が死んでるきつね」という表現が気に入ったので、
僕はそう呼ぶことにしてます。
表情といえば、主人公・リリエンタールの表情も豊かです。
うざい笑い!
ものすごい衝撃を受けたことは伝わってきます。
あえて、まゆ毛を顔からはみ出させることで表情に勢いが出てます。
顔のワクにぴったりまゆ毛を描かなきゃいけないルールなんて漫画にはないよ!
他には、てつこの目の座った感じとか、日野・兄の同じ細目なんだけど
毎コマ違った表情にみえるとか、いろいろと。
この作品、表情が本当に魅力的でした・・・。
賢い犬リリエンタールと物語の終わり
『賢い犬リリエンタール』の最終回はすっきりとした終わり方でした。
組織の首領(ボス)が出てきて、今までのキャラクターが力を合わせて
これを撃退するという、ある意味ジャンプ王道パターンでのシメ方です。
そもそもがジャンプ王道な感じではまるで無いこの作品ですが、まぁ
たまにはこんな展開もアリなんじゃないかと。
単行本も全4巻と、気が向いたときにさくっと読むには
ちょうど良い分量です。
打ち切り漫画特有の中途半端な感じはほとんどない稀有な作品でしょう。
極端なバトル展開にならず、あくまでも各キャラの得意なことで
リリエンタールを助けるという展開だったのも良かったかと。
作品によっては今までやってきたことをぶち壊しかねないですからね、バトルは。
密なんとかとか・・・。
単行本には、最終回の後日談である「てつこの卒業式」エピソードが
描き下ろされています。
このエピソードによって、てつこの「かぶと虫の幼虫事件」が解決する
わけですが、これが本当に良いエピソードなのですよ・・・。
後日談が蛇足になってる作品はまれにあるかと思いますが、
リリエンタールはそんなことはなく、むしろなくてはならない
真の最終回となりました。
メインキャラが成長したあとのリリエンタールの物語も
読みたかったなぁー。
葦原先生、素敵な作品をありがとうございました!
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