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Channel: 紫の物語的解釈
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思い出の一話〜【ちびまる子ちゃん 「まる子 おすし屋さんに行く」】

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印象に残ってる漫画やアニメの一話をピックアップして掘り下げる
「思い出の一話」のコーナーです。
今回は『ちびまる子ちゃん』を取り上げます。

現在では、日曜夕方6時放送のアニメとしてすっかり定着した
『ちびまる子ちゃん』。
その後に放送されている『サザエさん』と双璧をなして
過ぎゆく日曜を象徴する国民的アニメとなっています。
夕方の時間帯、家族で安心して観られるような内容であり、
ものすごくインパクトのある話はあまりないイメージがありますが、
原作コミックや、アニメ放映初期の話はさくらももこ先生の味のある
描写で大きな笑いを誘う、コメディの要素が非常に濃いものでした。

原作は90年代前半に連載されていたということもあり、
現在からすれば20年以上も前の作品となりますが、
いまだに忘れられない原作エピソードは多数あります。
そんな中でも、ひときわ大きなインパクトを誇ったのは
この「まる子 おすし屋さんへ行く」というエピソードでありました・・・。

一体どんな話だったのか?
以下に見てみましょう


  まる子 おすし屋さんへ行くの巻



もうすぐまる子の誕生日ということで、年金をはたいて
なんでも好きなものを買ってやるという祖父・友蔵ですが、
さすがにまる子は遠慮してトランプをねだります。

まる子の喜ぶ顔がみたい友蔵はまる子に遠慮せずに
本気を出してほしいものをねだるように言います。

「わかったよ 全力をだすよ 本当にいいんだね?」

そんなまる子の警告に、友蔵は

「いいともさ、年寄りの年金の底力をとくと見せてやる」

と自信満々です。
しかし、それが友蔵にとっての悲劇のはじまりでした・・・。



まる子が欲しがったのは「ローラースルーゴーゴー」
という玩具です。
これは1970年代当時実際に流行った玩具で、
本体価格5500円もの当時としては非常に高価な品物でした。

本気を出したまる子にさすがの友蔵も舌を巻きます。

「…さすがじゃ さすがに全力を出しただけのことはあるのう まる子よ」
「うん、わたしが全力を出せばこのくらいの物はねだるよ」

孫の遠慮の一切ないおねだりが聞けて友蔵は満足です。
即決してまる子にローラースルーゴーゴーを買い与えることにしたのでした。

そして、ここでやめとけばいいのに
友蔵のまる子へのサービスはとどまることを知りません。
続いて、友蔵はまる子にごちそうを食べさせてやろうとするのです。

「まる子は何が食べたい?トンカツでもうなぎでも何でもいいぞ 全力で言っとくれ」

友蔵の虎の子の年金は、ローラースルーゴーゴーの
5500円ごときに消えるものではありません。
まる子がどんな豪勢なものをねだろうが所詮は子どもの食事。
なにがきても決して揺るぐことはないはずでした。
ところが・・・!



なんとまる子がねだったのはカウンターのおすし屋!
これは完全に友蔵の予想のナナメ上を行くおねだりでした。
まる子のおねだりあなどりがたし!
しかし、年金の力はカウンターのすし屋一回の食事で
無くなってしまうほどヤワなものではないはずです。
友蔵は内心動揺しつつも、まる子のおねだりを受け入れます。



まる子が選んだ店は"高い"で有名は「石松寿司」でした。
友蔵は安めの光りモノでまる子の腹を満たそうとしますが、
全力のまる子が光りモノで満足するはずがありません。
初手からウニ!
まる子の全力が友蔵の財布をおびやかします。



ウニ→イクラと、明らかに高価なネタを狙い撃ちに注文する
まる子にドキドキしつつ食事を続けていると、花輪クンが来店します。
超絶金持ちである花輪家の御曹司が通うようなすし屋・・・。
友蔵のドキドキ感は止まりません。
しかも、花輪クンの寿司は特別製だといいます。
聞いたこともないキャビア寿司におどろきたまげる友蔵。
まるでここは違う世界のよう・・・。



「まる子も花輪クンとおんなじやつ食べたい」

一瞬、時が止まりました。
まる子・・・そこまで全力とは・・・
もうここまで来れば友蔵も腹をくくります。



「同じのをくれ」

清水(しみず)の舞台から飛び降りた友蔵はキメ顔でそう言いました。
ヒデじいと石松の店主がドン引きする中、なぜか不敵に笑う花輪クン。

食事を終えた花輪クンはいつものように「ツケ」で勘定をスルーしたため
友蔵に特別製すし盛りの値段はわかりませんでした。
花輪クンと同じ特別製をパクつくまる子を横目に、びびりすぎて
シメサバしか食えない友蔵。



さらに、まる子の全力はとどまるところを知りません。
キャビアをもう一回!

 まる子に全力を出せなんて言ったわしがバカだった…
 おそろしい事になってしまったわい…

ここにきてようやく自らの過ちを認めた友蔵。

 まる子よもう全力はいいからたのむ!ブレーキをかけてくれ!!
 わしの年金の力もまる子の全力にはかなわぬ!

しかし、友蔵のねがいもむなしく、まる子の全力は続きます。



みやげェ・・・!!

もうやめて、友蔵の年金は多分とっくにゼロよ!
ようやく漕ぎつけたお勘定の最中、神に祈ることしかできない友蔵。
そして、審判の時来たる



食いも食ったり7万5千円!

おおよそ食事代とは思えぬ天文学的数字に絶句する友蔵。
だが、よかった。たしか年金は8万円あったはず。

が、足りないっ!?
そうだった!
5500円のローラースルーゴーゴーを買っていたのだった!



動転した友蔵は小脇にローラースルーゴーゴーをかかえて全力で
おもちゃ屋に走りました。
たった500円が足りないがために。
ナレーターも言ってるけど、いっそそれに乗って
家まで金を取りに行ったらどうだ?

が、もう完全にわけがわからなくなっている友蔵に
そんな冷静な判断がくだせるはずもなく、
あわれ一度まる子に買い与えられたローラースルーゴーゴーは
おもちゃ屋へ返品されることになったのでした・・・。


  感想

どうでしょう?
ものすごくインパクトのある話ではないでしょうか。
まる子の容赦の一切ない全力と、それに動揺しまくる友蔵の
内心の描写が非常に痛快なエピソードです。
これは当時読んだとき腹がよじれるほど爆笑しました。面白すぎて。
初期の友蔵は本当にまる子に振り回されてアワアワするのがよく似合う
おじいちゃんだったなァ・・・。

この『ちびまる子ちゃん』。作者であるさくらももこ先生の幼少期を
ネタにした作品なので、実話を元にしたエピソードなの!?と
ちょっとざわっとしてしまいますが、そもそも実際の友蔵は
さくら先生たち家族にとって、非常に嫌なじいさんだったらしいので
多分これは作り話だと思います。そらそうだよ。

さて、このエピのみどころをどこから語っていいか悩みますが、
やっぱり友蔵の心の葛藤がメインということで、
友蔵のキャラの象徴ともいえる「心の俳句」が
大放出している点に注目してみましょう。

まずは、年金をもらった友蔵がまる子になんでも買ってやると言う
シーンに挿入される俳句がこちら↓

 孫のため 年金つかう 覚悟せむ
 (友蔵 心の俳句)

うーん、これは結末を知った上で詠むと非常に味わい深い句です。
このときの「覚悟」がのちに起こる友蔵の悲劇を確定させたのですからね。
つづいて、すし屋に入ってからの句がこちら↓

 ウニなんて わしも食べたい だけどシメサバ
 (友蔵 がまんの俳句)

これは涙なしには詠めない名句・・・!
まる子の全力にびびり、自分は安い光モノしか頼めない友蔵の
つらさが伝わってきます。
他人の金で遠慮なく食う高級品は本当に美味いもんですが、
自腹を切って、しかもいくらになるかもわからないような高級店で
する食事などそりゃあ味わう心の余裕もないでしょう。
シメサバとはいえ高級店の寿司なんだから、それなりに美味い
はずですが、友蔵から一切寿司の味の感想が出ていないことから
その辺りの苦が伝わってきます。

また、このエピソードの次のエピソードでも、
友蔵は心の俳句を詠んでいます。

 100円で 喜ぶ孫よ 我ゆるせ
 (友蔵 罪ほろぼしの俳句)

ローラースルーゴーゴーを返品してしまったことで
まる子に負い目を感じる友蔵が、せめてもの罪ほろぼしを
ということでまる子に100円のおこづかいをあげたときに
詠んだ句です。
明らかに悪いのは異常な金額のすしを食い荒らしたまる子の
はずですが、それでも全力を出せと言ったのは自分…。
そのあたりを自分の「罪」として罪ほろぼしと称すのは
ちょっと友蔵にとっても酷じゃないでしょうか。

しかし、マジで食いも食ったもんです75000円も。
75000円ったら、居酒屋でちょっと高めの5000円コース
15人分ですよ。
現在の価値でも十分高いのに、これが70年代当時の金銭価値に
当てはめたらどうなるのかちょっと想像もつきません。
75000円で友蔵が絶句してるときに、横でまる子がにこにこしてるのも
75000円が具体的にどんな価値を持つのかまるで
わかってないからでしょう。
まる子はただ友蔵の言われるがまま全力を出しただけなのですから。

まる子の全力に対する友蔵のリアクションも本エピソードの
みどころのひとつですね。
まずは、すし屋のカウンターと言われて後頭部に矢が突き刺さって、
いきなりウニを注文されて、殻付ウニがビシビシ降りそそぎ、
まる子の全力に気おされて清水の舞台から飛び降りたり、
キャビアまさかの再注文で銃で額撃ち抜かれたり、
トドメのおみやで戦車の集中砲火喰らうというフルボッコっぷりです。
まる子無双にもほどがある!
その連続攻撃で追い詰められた末の友蔵の行動が最後のおもちゃ屋への全力ダッシュ
というのだから、もう友蔵このエピソードで死んじゃってもおかしくないくらいの
ダメージを受けてるんじゃないでしょうか。

こんだけ密度の濃いエピソードがたった16ページに集約されていると
思えば、そりゃ印象にバッチリ残るわけですよ。
この次のエピソード「まる子 ローラースルーゴーゴーがどうしてもほしいっ!」の巻
も面白いんですけどね。
次へつながるという点からみても、この一話の占める
ウエイトはでかいです。

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