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Channel: 紫の物語的解釈
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最終回を語れ!〜【北斗の拳】編

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唐突に新コーナーを思いついたのでちょっと書いてみます。
だいたいタイトルからわかると思いますが、ある作品の
「最終回」を取り上げて徹底的に語ってみるコーナーになります。

物語にはいつか終わりが訪れます。
物語の始まりから終わりまで軸がぶれずに綺麗に終わる物語もあれば、
始まりからは想像もつかないような終わり方をする物語もあります。
また、長期にわたって連載される人気漫画作品などの場合は、
途中までは熱中して読んでいた読者も、長い連載期間の中でダレてしまい、
読むのをやめてしまって最終回は読んでいない、という
パターンもあるかもしれません。

そんなわけで、作品の「最終回」というものは
読者によって受け取り方がずいぶんと違うものになるはずです。

 夢中になって駆け抜けるように読んで、最高潮の盛り上がりまま迎えた最終回

 最初は面白く読んでたのにだんだんとつまらなくなり、
 とうとう惰性で読むようになった作品の「やっときたか」という最終回

 すごく好きな作品だったのに、読者アンケートの結果がふるわずに
 あえなく迎えた打ち切りによる消化不良な最終回

 いつしか読まなくなった作品が、いつの間にか迎えていた最終回

 ・・・・

今回取り上げる最終回は、週刊少年ジャンプのバトル漫画人気の
火付け役となった不朽の名作『北斗の拳』です!

皆さま、『北斗の拳』最終回おぼえていますか?

核戦争後の荒廃した地球を舞台にヒャッハァーな人達を相手取り
骨肉の死闘を演じたケンシロウ。
彼がどのような物語を辿り、どのように物語に幕を引いたのか。
では、以下にみてみましょう


  最終回直前までの展開

・・・まぁ、当時『北斗の拳』を読んだり、アニメで観ていた方々にとって
どうしても印象深いのは、北斗の長兄・ラオウとの戦いまででしょう。

ケンシロウに敗れたラオウが「わが生涯に一片の悔いなし!!」と拳をかかげ、
天が割れて光が刺すシーンは震えが来るほど興奮を与えてくれました。
あぁ、なんて素晴らしい最終回だったのだろう。

・・・あれ?

いやいや、最終回じゃないですね。『北斗の拳』はまだまだ続きます。
(アニメでは一応ここで最終回となって、以降は『北斗の拳2』扱いされますが)

でも、ラオウとの戦い以降の展開を憶えている人は、
ラオウとの戦いまでを憶えている人に比べて極端に少ないと思われます。

それもそのはず、作者のお二人はケンシロウとラオウの戦いの決着をもって
物語を完結する意向だったのが、当時のジャンプの方針によって
連載が引き延ばされたのです。
両先生は短い準備期間の中、ラオウ戦以降の話を作っていったのですが、
連載終了後は「ラオウ編以降はあまり覚えていない」と発言しています。

作者が「あまり覚えていない」とか言うくらいだから、
そりゃあ読者にとっても印象は薄いでしょう。

以下が、ラオウ編以降の物語のあらすじとなります↓

ラオウ戦以降、ユリアとともに荒野へ消えたケンシロウは
ユリアと静かな生活を送りましたが、やがてユリアは病により
帰らぬ人となってしまいます。
時は流れ、世は再び混迷の時代を迎えました。

世は「天帝」による圧政の時代。
成長したリンとバットは「北斗の軍」を率いて天帝に立ち向かいます。
そこには再び立ち上がったケンシロウの姿がありました。
天帝軍には「元斗皇拳」の使い手「金色のファルコ」ら強敵もおり、
ケンシロウと激闘を繰り広げます。

やがて、なんやかんやあってリンが「修羅の国」という場所に
連れ去られます。
修羅の国へ乗り込んだケンシロウは、そこが自分の祖国であることを知り、
生き別れた実兄・ヒョウと出会います。
また、ラオウの実兄・カイオウも修羅の国最強の敵としてケンシロウの
前に立ちふさがり、なぜかリンの記憶を奪ったりします。
激闘の末、カイオウを倒したケンシロウは修羅の国をあとにします。
(※アニメはここまでで終了)

修羅の国をあとにしたケンシロウは、なぜかラオウの息子・リュウと
旅をしています。(母親はだれだよ!)
リュウとの旅の途上、ケンシロウは内輪もめしてる国を和解させたり、
なんかそんな感じに活躍します。
やがて、もう大丈夫な感じになったリュウと別れ、
ケンシロウは亡きユリアの眠る地へ帰ります。

さて、記憶を失ったリンはバットと結ばれようとしていました。
しかし、リンが本当に愛しているのはケンシロウ・・・。
そのことを痛いほどわかっているバットはリンの偽りの愛を
良しとせず、リンの秘孔を突いて(バット秘孔突けたのかよ!)、
リンの記憶をリセットしてしまいます。
一方、ユリアの墓前に立つケンシロウはユリアの最期の言葉を思い出します。
「わたしのことは忘れてリンちゃんに幸せを」
ユリアはそう言っていました。
しかし、ケンシロウはリンとバットのもとへ姿を見せる気はありませんでした。
その夜、ケンシロウは涙を流すユリアの幻をみます。
そして、七つの傷が再び疼きだしたケンシロウはすべての記憶を失ってしまいました。
記憶をなくしたケンシロウはリンとバットのもとへ姿を現します。
バットは記憶をなくした者同士のリンとケンシロウをみて、
二人のために身を引きます。
同じころ、かつてケンシロウに両目を奪われたボルゲという男が
ケンシロウに復讐をくわだてていました。
(注:別にかつてやられた敵キャラではなく全くの新キャラさんです)
バットは記憶をなくしているケンシロウの身代わりに、ボルゲに挑みますが、
まるで歯が立たずに捕まって拷問を受けてしまいます。
そこへ現れたのは記憶をなくしたままのケンシロウでした。
ボルゲ相手に苦戦するケンシロウに、バットは思い切りケンの名を
叫びかけます。バットの魂の叫びにケンシロウの記憶は完全に甦り、
完全復活した北斗神拳で、ボルゲはあえなく葬り去られます。
満身創痍のバットを介抱したのはリン。リンもまた、ケンシロウと
同じように記憶が甦っていたのでした・・・。


・・・と、ここまでが最終回直前までの内容となります。
では、以下に最終回の内容をみてみましょう。


  最終話「さらば愛しき者たちよ…そして荒野へ…」



失われていたリンの記憶は完全によみがえっていました。
リンはいつも感じていたバットのさりげない優しさにあらためて
気が付きます。
記憶を失ったリンとケンシロウを結びつけようとしたバットの
目論見はここにきて外れてしまいました。
しかし、満身創痍のバットはすでに死にゆく身・・・。
バットは「死んでゆく人間の最期の頼み」として、
ケンシロウとリンのふたりで幸せになってくれと言います。

ケンシロウはバットの頼みを聞き入れました。



「おまえの受けた傷はオレやリンのために負ったもの
 おまえの優しさの証だ!!
 おまえは すばらしい男だった!!」

ケンシロウのその言葉で、バットはすべてが報われた
気持ちになりました。
これでもう何も思い残すことはない・・・。
バットはこれ以上ないほど満足そうに力尽きるのでした。



ケンシロウと一緒になれるように命懸けで手を尽くしてくれた
バットでしたが、リンはバットの死とひきかえに自分だけが
幸せになることに抵抗を感じました。
そして、同時に自分が誰を愛すべきか気がついたのです。
リンは一生バットの側から離れず、バットの墓とともに
人生をまっとうすることを決意します。
ケンシロウはそんなリンの決意を汲みとり、

「行くがいい オレの心はいつもおまえのそばにいる」

と言い残し、リンと別れました。



バットを手厚く葬ろうとしたリンは、バットの遺体の異変に気が付きます。
なんと、バットの心臓が動いているのでした。
ケンシロウがバットの身体の秘孔をついて、
生命力を与えていたのです。

リンとバットは長い月日を経て、ここにようやく結ばれるときが
来たのです。

ケンシロウは天に浮かぶユリアの幻に問いかけます。

「ユリア これでいいのだろう」

ユリアの幻はもう涙を流しておらず、静かにケンシロウに
ほほえみかけます。



「オレの墓標に名はいらぬ!!」

再び荒野に旅立った救世主・ケンシロウ。



彼は、今日も荒野に巣食う悪党どもを屠り続けるのでした・・・。


  語り尽くせ、最終回!

さーて、どうだったでしょう『北斗の拳』最終回!

最後に持ってきたエピソードが「ケンシロウ、リン、バットの三角関係」
というのはどうなんでしょう?
これは意外なようでいて、実は物語冒頭から潜在していた
伏線だったはずです。
第一話からあきらかにケンに惚れていたリンの気持ちに
最終話で決着を着けるというのも実に粋ですし、
リンの気持ちに気付きながらも、ずっと行動を共にするうちに
いつしかリンへの想いを募らせていったバットの心にも
スポットを当てたのはとても良かったです。

努力をかさねても自身はそれほど強くなれず、ケンシロウの背中を
あこがれるように見ていたバットは、まさに読者目線のキャラでした。
読者が自分を投影できるという意味では、バットは
『北斗の拳』におけるもう一人の主人公といっても良いかもしれません。

また、絶対的なヒロインオーラを持つユリアにかなわず、
ケンシロウへの想いを決して口に出すことのなかったリン。
第二部以降は、天帝の双子の妹という驚愕の事実も
発覚し、つぎつぎと現れるボスキャラに代わる代わるさらわれるという
その様は、まぎれもなくヒロインのそれでした。
リンはユリア亡きあとの、もう一人のヒロインでした。

読者投影型主人公・バットと、出世型ヒロイン・リンがメインとなって動く
最初で最後のエピソードが最終回という演出!
非常に良いエピソードチョイスだと思いました。

正直、直前までやってた「ラオウの息子編」に全然入り込めなかったので
ここに来てのバット主演回はとても感情移入できます。

強敵とひたすら戦い続けた物語のラストが、思いっきり色恋の話
というのには抵抗があるかもしれませんが、
そもそも『北斗の拳』は愛の物語であったはずです。

 愛するユリアのために戦いに身を投じたケンシロウ

は言わずもがな、

 ユリアへの深すぎる愛がゆえに大暴走をしたシン
 マミヤへの愛を抱いたまま自らの最期を迎えたレイ
 「愛などいらぬ!」と叫びながら、その実誰よりも愛深かったサウザー
 乱世に生きる子どもたちの未来のために精一杯の愛をそそいだシュウ
 自らの生命を犠牲にし、多くの人々の生命を救うために生きたトキ
 「愛」とは何かについて誰よりも真剣に向き合い、自分なりの結論を得たラオウ

 聖母のような出で立ちで、多くの男どもを愛に狂わせたユリア・・・。

というように、主要登場人物のほとんどが愛に生きています。
これほど作品内に「愛」という単語が飛び交う作品は
他にないんじゃないでしょうか。

そんなわけで、最後のエピソードにこういった直球の愛の話をもってくるのは
実に『北斗の拳』らしいと言えると思います。

ラスボスが本当にただの外道だったというのも良いですね。
いままでのボスキャラたちは最後はなんだかんだで和解っぽくなっちゃうんですが、
やっぱり『北斗の拳』は救いようもない外道を派手にぬっ殺す
のが文句なしに一番面白いです。
戦闘面が最後に原点回帰したのも非常に良かったです。
ラスボス・ボルゲの最後はあべし語連発で、

「はぶらばら」
「びィえ」
「かぴぶ」
「あぶた」
「びぎょへ!!」

と、一人であべし語を5ワードもつぶやいて爆死します。
最後だから余計にあべしっとります!


と、まぁこんな感じで、途中に中だるみはあったものの、
最後は非常にらしく終わった『北斗の拳』。
私は決してこの最終回を、引き延ばしの末の尻すぼみエンディングとは
思いません。

この最終回は、愛の物語である『北斗の拳』を綺麗にしめくくった
最後の愛のエピソードだったのだと思います。


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