Quantcast
Channel: 紫の物語的解釈
Viewing all articles
Browse latest Browse all 69

【フジリュー版・封神演義 原作読み比べ】ハンバーグのエピソード

$
0
0

『封神演義』は中国の古典文学作品の一つです。

紀元前11世紀の中国の古代王朝「商(殷)」を舞台に
歴史上の有名人「太公望」を中心に描かれた物語です。
紀元前11世紀といえば、日本はまだ弥生時代にも入っていない
ほどの昔々のお話です。
日本人が狩猟したり土器つくったりしてる一方、中国では
貨幣経済の発達した立派な王朝が成立してたわけですね。

『封神演義』の成立した年代や作者については諸説あるようですが
すくなくとも「明」の時代(1368-1644年)には成立していたようです。
冒頭で封神演義を「文学作品」と書きましたが、その内容は
100人を超える仙道キャラたちが超兵器「宝貝(パオペエ)」を
駆使して超絶バトルを繰り広げるファンタジーな内容でした。
『封神演義』は、同じく中国の古典小説『三国志演義』『西遊記』『水滸伝』と
並ぶとされますが、他の三作品と比べてファンタジー要素が非常に強く、
そこを敬遠され、その三作品と並べるほどのものではないと
評価されることもあるようです。

でも、その痛快な内容が大衆には大人気だったようで。
要は、大昔のライトノベルだったわけですね。

その『封神演義』を翻訳し、日本に広く伝えたのが
今は亡き、安能 務 先生です。
1989年刊行の安能 務 訳版により、『封神演義』は日本に広く
知られるようになったといわれます。

そして、その安能 務 訳『封神演義』を見事に漫画化し、
週刊少年ジャンプで1996年から2000年にかけて連載されたのが
藤崎 竜先生です。

このフジリュー先生の漫画から『封神演義』を知った
当時の若者も多いはず。
僕ももちろんそのひとりです。

さてさて、このフジリュー版『封神演義』ですが、
安能版『封神演義』を原作としつつ、その原作の味を生かしたまま
非常にうまい具合に面白い漫画として描かれています。

前置きが長くなってしまいましたが、今回の記事は
安能版『封神演義』とフジリュー版『封神演義』を読み比べて
みようというのが主旨となります。

読み比べるエピソードは「ハンバーグ」のエピソード。
これだけ聞いただけでも、フジリュー版の熱心な読者は
すぐにピンと来るのではないでしょうか。
そう、あの話です・・・。


  安能版「ハンバーグ」のエピソード

このハンバーグのエピソード、内容が内容なだけに少年誌に
そのまま描くのはいささか弊害があるこのエピソードですが、
フジリュー先生のたくみな描き方によって、見事に漫画化することに
成功しています。

一体どんな内容だったのか。
まずは原作・安能版の内容から確認してみましょう。


 安能版『封神演義』 第一八回 「伯邑考が納貢して贖罪する」あらすじ

 西伯公・姫昌が紂王によって幽閉されてから七年の月日が経つ。
 姫昌の嫡男・伯邑考は紂王に宝物を納貢して父の許しを請うことにした。
 紂王と対面した伯邑考は、紂王が妖艶な后・妲己に惑わされていることを悟る。
 伯邑考は紂王のもとを訪れるべきではなかった。
 妲己の謀略によって伯邑考は紂王暗殺の容疑をかけられ、処刑されることとなる。
 その処刑法は残酷極まりないものであった。

 伯邑考は身体を切り刻まれ、その肉で「肉餅(ズーピン)」(※ハンバーグ)
 が作り上げられた。その肉餅は、幽閉されている父・姫昌のもとへ運ばれた。
 姫昌は肉餅の元が自らの息子であることを悟ったが、紂王の怒りを買うことを避け、
 その肉餅を感激の情を出しながら口に入れた。

 姫昌が自らの息子の肉餅を食したという知らせを聞いた妲己はえたりと笑った。


・・・うん。

倫理的にも映像的にもいろんなイミでNGなこのエピソード。
とてもじゃないですが、少年漫画誌に描けるようなお話ではないです。

まぁ、中国の昔話ではこういう食人系エピソードは
実はよく用いられるモチーフで、三国志演義にもこういう話はあります。
罪人の肉を切り刻んで塩漬けにするという刑罰も古代中国の王朝で
実際に行われていたことであり、中国的にはそれほど驚くべき話では
ないと思われますが、日本人にしてみればショッキングなお話です。

さて、このエピソード、フジリュー先生はどのように
コミカライズしたのでしょうか・・・?


  フジリュー版「ハンバーグ」のエピソード



この一話にて憐れ魂を散らしてしまう伯邑考、堂々の登場です。
とってもイケメン。

原作・安能版と同じく、西方の宝を持参して紂王に納貢します。
その宝物のうち、歌を歌う猿「白面猿猴」が妲己の正体に不穏なものを感じて
妲己に襲い掛かってしまうというのも原作通り。



さて、問題はここからです・・・。
ついに処刑される伯邑考。どうなる・・・!?



緊迫した引きゴマから打って変わって、次の場面ではコミカルな
クッキングショーが始まってしまいました!
なんだコレ・・・



どうやらハンバーグを作っているようです。
ふむふむ・・・



そして、姫昌のもとへ運ばれる妲己ちゃんお手製のハンバーグ。



その皿を見た姫昌は息子の名をつぶやき涙を流します。



その夜、姫伯邑考の魂魄が封神台へと飛びました。


・・・。
と、フジリュー版はこんな感じでした。
この話が掲載されたジャンプをリアルタイムで読んでいましたが、
当時中学生の僕は当然、原作の『封神演義』はまったく読んでおらず、
このエピソードの途中でいきなり妲己ちゃんのクッキングタイムに
なるのがまったくの意味不明でした。
この回のサブタイも「妲己・喜媚の3分クッキング」でしたからね。
なんのこっちゃと思いました。

ですが、そのあとの姫昌の涙。
そして、封神台へ飛ぶ伯邑考の魂魄。
これらが示すものとは・・・と考えに至ったとき、背筋がぞわっとしたのを
覚えています。

いやいや、これは。
意味がわかると、妲己と喜媚がコミカルに作っているハンバーグの
シーンがやたらと怖くみえるのが不思議です。
コミカルになればなるほど、その手でこねくりまわされている
「肉」に思いが至ってざわわとなるというかなんというか。

くだらないことをシリアスにやって笑いを誘う「シリアスな笑い」が
得意なフジリュー先生ですが、これはその真逆。
実は恐ろしいことをひたすらコミカルにやって、それがかえって恐ろしいという
言ってみれば、「コミカルなホラー」という感じでしょうか。

このエピソードにて、妲己の作ったハンバーグが伯邑考の肉であることは
明確にされません。
また、姫昌も妲己のハンバーグを食べた直接の描写はありません。
ですが、間接的な描写でそれが伯邑考の肉であること、姫昌がそれを食べたこと
を読者に連想させるような作りになっています。

なるほどー。こうやって出版コードを乗り切ったのか。
たしかに、素直に読めばただ妲己がハンバーグつくってるだけのお話ですからね。

普通に考えれば、このエピソードは漫画化する上では
まるまるカットするか、別のエピソードに差し替えてもよかったと思いますが、
フジリュー先生は果敢にも挑戦したのでしょう。
そして、完成したエピソードをみれば、出版コードにも抵触せずに
実に見事にこの恐ろしいハンバーグのエピソードを消化したものです。

フジリュー先生のそこにシビレます!

拍手ボタン
記事が面白かったらポチっとよろしくです。

【ポイント5倍 4/2 13:59迄】【中古】【古本】封神演義 [1~18巻 全巻] 完全版 (著)藤崎竜-全...

【ポイント5倍 4/2 13:59迄】【中古】【古本】封神演義 [1~18巻 全巻] 完全版 (著)藤崎竜-全...
価格:7,770円(税込、送料別)


Viewing all articles
Browse latest Browse all 69

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>