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Channel: 紫の物語的解釈
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【祝・シャーマンキング復活】恐山ル・ヴォワールを振り返る

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2011年11月10日発売の雑誌『ジャンプ・改』VoL.5において、
『シャーマンキング』の読み切りが掲載されました。
内容的には、『シャーマンキング 0-zero-』ということで、
シャーマンキング本編よりも過去、1995年、主人公・葉が
10歳の頃のお話でした。

シャーマンキング連載終了から、7年…。
完全版刊行から、3年…。

完全版の後日談で魅力的なキャラが多数登場したこともあり、
ファンにとっては続編への期待が非常に高かった作品かと思います。
それだけに、この『ジャンプ改』での復活は歓喜モノ!

ネットは沸き、ニコニコ動画では「祝・マンキン復活」として
作中に登場した「恐山ル・ヴォワール」の詩に楽曲をあてた
アンナ役の声優・林原めぐみさんそっくりの歌声の持ち主が歌っている動画が
アップされ、大きな話題を呼びました。
(後日、林原めぐみさん本人が歌っていると判明)

このように、劇的な復活を果たしたシャーマンキング。
しばらくは『シャーマンキング 0-zero-』として読み切りシリーズが
『ジャンプ改』に掲載されていくようですが、4月発売の号から
ついに葉の息子・「花」を主人公とした『シャーマンキングFLOWERS』が
連載開始される予定だそうです。

今回は『シャーマンキング』復活を祝して、本編で特に印象的だったエピソード
「恐山ル・ヴォワール」編を振り返ってその魅力を紹介していきます。
ネタバレ全開でいきますので未読の方はご注意をば。では、どうぞ〜↓


  恐山ル・ヴォワールとは?

「恐山ル・ヴォワール」とは、『シャーマンキング』本編において、
葉がシャーマンファイトを辞退するという展開となった次の話にて
唐突に始まった全15話にものぼる長編の過去回想のことです。

ジャンプ漫画において物語途中に「過去回想編」に突入することは
よくあることですが、シャーマンキングの場合、それがあまりに突然だったことと
本編とはまったくノリの異なる話だったことが印象的でした。
当時、ジャンプ本誌で話を追っていた読者は面喰らったことでしょう。



時は1995年。
10歳の麻倉 葉が許嫁の恐山アンナと初めて出会ったときのお話となります。



アンナを訪ねて出雲から青森まで旅をする葉。
旅のおともには猫またの霊である「マタムネ」が同行します。



アンナは誰に対しても心を閉ざす女の子でした。
それは彼女の持つ強大な力のせいで、望む望まないにかかわらず
人の心の声が頭に入り込んでくる彼女にとって、人に心を開くなどということは、
とても無理な話でした。
大きすぎる力をうまく制御できないアンナは、同時に自分の周囲に「鬼」を
呼んでしまいます。

「あたしに近づくと皆不幸になる…」

アンナは他人も自分も嫌いでした。



ところが、出雲からやってきた麻倉葉はアンナが呼び出した「鬼」と戦おうとします。

「鬼は鬼でしか倒せない…」

葉の行動は無謀でしかありませんでしたが、
アンナはそんな葉にわずかに希望の灯りのようなものを見た気がしました。



「シャーマンキング」となってアンナの呪われた力をなんとかしてやるという葉と、
ぴったり閉ざした心の扉がゆるぎはじめたアンナ。
ふたりは大みそかの夜、恐山へと初詣へ出かけます。

しかし、宵闇の恐山には今までの「鬼」よりもはるかに強大な
「大鬼」が具現化しようとしていました・・・。



・・・と、以上が「恐山ル・ヴォワール」編のあらすじとなります。
シャーマンキングの本筋の物語から、いきなりこのような回想に突入したのは
おそらく、葉とアンナが「シャーマンキング」にどれほどこだわっていたかを
読者に知ってもらうためだったと思います。

そもそも葉は、何事にもやる気のなさそうなユルい主人公でした。
「恐山ル・ヴォワール」編直前で、葉はシャーマンファイトの辞退を迫られることになり、
実際に辞退を表明してしまうわけですが、読者からみると、葉は「のんびりとユルく生きたい」
をモットーにしていたキャラであるため、もともとシャーマンキングにどうしても
なりたかったわけじゃなかったんだと受け取ってしまいます。

そういうわけで一回仕切り直して、葉とアンナとシャーマンキングを巡る過去話を
差し挟むことで、葉としてもシャーマンキングになるのを断念するということは
苦渋の決断だったのだということを読者に知ってもらう必要がありました。



この過去エピソードを差し挟むことで、以降の葉がシャーマンファイトに復帰する展開に
説得力を持たせる、そういう狙いもあったのかと思います。

と、一応『シャーマンキング』の本筋の流れからみて重要な意味もあった
このエピソードですが、単体として読んでも「恐山ル・ヴォワール」編
だけで一個の作品として成り立つ味のあるエピソードでした。

事項以降でその魅力について逐一掘り下げてみます。


  背景の描き込みによる臨場感。まるで本当に旅行しているよう!



恐山ル・ヴォワール編に限りませんが、武井先生の背景の描き込みには
ちょっとしたこだわりを感じます。



寝台特急「乙斗星」が青森駅に到着。
「青森〜」の到着アナウンスのコマに、「暖房システム」やら「青森のお米」
やらの大看板が描かれています。
新幹線が停まる駅にありがちの、車窓からみえるビルに大看板が取り付けてある
風景を描くことで"青森に到着した感"を演出しているわけですね。

この「看板演出」は実は武井先生の得意分野で、いろいろなコマで
お目にかかれます。


雪の積もった「ねぶた漬け」などの看板!
味がありますねぇ。


「水産庁長官賞受賞 マルヨ水産株式会社 おいしいちくわです かもめちくわ」
と、その他おべんとう系の看板。細かい演出ですねぇ。


スナックやナイトパブなどの看板の数々。
歓楽街ですねぇ。

これら「看板演出」は、そこに書いてある文字が何であれ、
確実に情報として読者にインプットされ、「臨場感」を与えてくれます。
まるでその土地にいるかのような気にさせてくれる看板演出は
「青森」という郷土に関わり深い物語である「恐山ル・ヴォワール」編を
上手く演出してくれていました。

また、武井先生の背景の凝りっぷりは看板演出だけにとどまりません。


おばあちゃん家特有の、先祖代々の写真&仏壇!


そして、電燈からぶらさがる「灯りを消すときのためのヒモ」!芸が細かい!

こんな感じで、やたらと生活感があふれる背景も武井漫画独特のものです。
普通なら、本編と関係ないのでオミットされてしまいがちなところも
徹底的にこだわっている様子がよくわかります。


お土産売り場とか、もう圧巻です。
ここまで描き込む必要があるのだろうか…否、あるのです。
臨場感です。臨場感。


果ては背景人物にまでこだわる始末。
旅館の前でコマ回しに興じる子どもたちですが、
なんか見るからにキャラデザがしっかりしてます。背景キャラなのに。
それもそのはず、この子どもたち、キャラデザどころか
実は細かい設定まで存在しているのです。背景キャラなのに。
彼らは「下北コマMAX」。
かつて恐山独楽地獄四番勝負に打ち勝った独楽戦士(コマンダー)たち
なんだってさ。
これは、当時アニメが放映されていた『爆天シュート ベイブレード』の
パロディのような気がします。
ベーゴマ玩具の話なのに人が死にそうなくらい熱いアニメでしたので…。

と、まぁこんな感じで下手をしたら本編を食ってしまいそうなくらい
背景がはっちゃけていた「恐山ル・ヴォワール」編。
この頃の武井先生は「脇道が楽しい」と公言していたこともあり、
本編とは関係のないところを凝りに凝るのは必然でした。
まぁ、そもそもこの「恐山ル・ヴォワール」編自体、壮大な脇道ですしね。


  やっぱり脇道。個性的な劇中歌

上の背景の話にも通じる脇道系の話題となりますが、
「恐山ル・ヴォワール」編では印象的な劇中歌がいくつか登場しました。



『BOB LOVE』 作詞・作曲:ボブ
葉がヘッドフォンのよく聴いているアーティスト・ボブが
1995年度紅白歌合戦で歌った曲です。
一緒に紅白を観ていたアンナから「ヘンな歌」と言われていました。



『りんごウラミウタ』 作詞・作曲:あわやりんご
ボブとおなじく1995年度紅白歌合戦で披露されたあわやりんごの曲。
葉からは「おっかなくねぇか、りんご」と言われましたが、
アンナは「見た目だけよ」と否定しました。

「りんごがあのような装束を着て恐ろしいふるまいをするのは
 臆病な自分を隠すため」

「この詩(うた)も 本当はとても優しい詩」


こういう、ちょっと遊んでいるような脇道劇中歌も実は
本編の重要な部分に絡んでくるというのも武井先生の得意技です。

ボブの歌は、周りの人がヘンな歌と言ってしまうような歌を好んで聴く
葉のマイペースなキャラを象徴するようですし、
あわやりんごの、恐ろしくふるまうのは臆病な自分を隠すためという部分も
アンナに通じるものがあります。

なにより、このとき葉とアンナの二人が観た紅白歌合戦が
二人の心の距離を近づける接点となりました。

ボブとあわやりんご。
ふたつのヘンな劇中歌が、ふたりの物語を結び付ける役割を果たしていました。




また、「恐山ル・ヴォワール」編の最大の特徴といえば、
やはり各話の終わりのコマに登場する印象的な詩でしょう。

 お前さんを待つ その人は
 きっと寂しい思いなぞ させはしない
 少なくとも 少なくとも

これらの詩の断片が、最後のお話でひとつにまとまって
読者の感情をはげしく揺さぶることとなります。

それを紹介するまえに、まずは「恐山ル・ヴォワール」といえば、
まっさきにその姿がうかぶあの猫について掘り下げます。


  小生は猫である



葉の初めての持ち霊である猫またの「マタムネ」は、
「恐山ル・ヴォワール」編を象徴する重要なキャラクターです。
物語的に重要なばかりでなく、キャラクターとしてものすごく濃かったこの猫。
いったいどのようなキャラだったのでしょうか。




霊なのに風呂に入ったり眠ったりと、ぜんぜん霊っぽくない!
そして、可愛い。可愛すぎる。お持ち帰りぃー!


ラブリーな見た目に反して、言葉遣いがとても重厚。ギャップ萌え!
一人称が「小生」とか、どこぞの文豪ですか…。


それでいて、激強! またまたギャップ萌え!
霊力値20万と、作中登場する霊の中では最強クラスの強さです。
(ハオの操るスピリット・オブ・ファイアで霊力33万)


そして、『シャーマンキング』本筋の物語からみてもかなり重要なキャラクター
と来ているので、それはもうインパクト抜群のキャラでした。
実際、ファンからの人気もかなり厚いです。



「恐山ル・ヴォワール」のラスト。
オーバ―ソウルとして実体を保っていたマタムネは、アンナの生みだした
「大鬼」を倒すために自ら術を解き、霊の姿に戻ります。
マタムネと憑依合体した葉は大鬼を討ち祓いますが、
マタムネはすべての巫力を使い果たし、成仏するのでした…。





帰りの電車のなか、葉はマタムネからの手紙を開きます。



手紙の最後には一枚の詩が書き添えられていました。
この詩こそが「恐山ル・ヴォワール」。
各話の終わりに断片的に現れた詩の集合でした・・・。

冒頭でも触れましたが、この詩に楽曲をつけたファンの方がいました。
そして、その楽曲付きの「恐山ル・ヴォワール」を
アンナ役の声優・林原めぐみさんが歌っています。

【恐山アンナ】恐山ル・ヴォワールを歌ってみた【マンキン復活】



うーん、浄化されることされること。
このような動画が出てくることから、「恐山ル・ヴォワール」編の
ファンからの愛されっぷりがうかがえます。

バトル漫画的展開も悪くなかった『シャーマンキング』でしたが、
少しノスタルジックで切ない「恐山ル・ヴォワール」編も
新たな表現の可能性としては十分にアリでした。
連載当時はとまどっていた読者も、あらためて読み返してみると
また違った想いを抱くのではないでしょうか。

「恐山ル・ヴォワール」編は、完全版15巻,16巻に収録されています。
未読のあなたも既読のあなたも、あらためて読んでみてはいかかでしょうか?



では、また。

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